鳥の種の多くは、仲間との交流や繁殖のための歌をもっています。
歌は通常、親やコミュニティによって、子供たちへと自然に受け継がれていきます。
しかし個体数が減った鳥のグループでは、歌という文化がうまく伝わらずに途絶えてしまうことがあります。
オーストラリア南東部に生息するミツスイの一種「キガオミツスイ (Regent honeyeater)」は、独特の歌を歌うことで知られています。
ミツスイの種は、名前の通り木や果実の蜜を主食とし、それぞれが歌の文化を保有しています。
現在絶滅危惧種に指定されているキガオミツスイは、単に数が減っているだけでなく、固有の歌も失いつつあります。
調査によると、野生のキガオミツスイの約4分の1が、伝統的な歌ではなく、別の鳥の歌を覚えています。
生息地の分断で失われる歌の文化
オーストラリア国立大学の生物学者チームは、キガオミツスイの生態を調査する過程で、固有の歌が失われているケースを発見しました。
キガオミツスイはかつて、オーストラリア東部の森林地帯や、グレートディバイディング山脈の内陸に沿って広範囲に分布していました。
しかし自然環境の破壊や気候の変化などにより、現在はニューサウスウェールズ州とビクトリア州の一部に300羽ほどが生息しているのみです。
オーストラリアでは2019年から2020年にかけて大規模な森林火災が起き、キガオミツスイを含む多くの野生動物が命を落としました。
研究は当初、絶滅危惧種であるキガオミツスイの現状を知るためだけに行われていました。
ところが探索を続けていくと、キガオミツスイの歌う歌が、生息地によって微妙に異なっていることがわかりました。
そのため研究者は、個体数の把握とともに、コミュニティでどんな歌が歌われているのかについても調査を行いました。
研究者の一人であるオーストラリア国立大学のロス・クレイツ氏は、「彼らの歌はキガオミツスイのようには聞こえませんでした。別の異なる種の歌のようでした」と振り返っています。
野生での数が激減しているキガオミツスイ (Derek Keats/Flickr)
調査の結果、全体の27%で、伝統的な歌が別の種類の歌に置き換わっていることがわかりました。
生息数が特に少ない地域では、オスの12%が、種に固有の歌を完全に忘れていました。
オスの成鳥にとって歌は、繁殖相手を決めるための重要な要素です。
しかし歌が種に固有の形式でなければ、メスは警戒してしまい、繁殖はおぼつかなくなります。
個体数が著しく減っているキガオミツスイにとって、古来より伝わる歌の喪失は、そのまま種の喪失へとつながります。
キガオミツスイの歌の変化は、個体数の減少と生息地の分断によって起きています。
通常、幼鳥は、他の年長のオスの歌を時間をかけて覚えます。
成長し歌をマスターしたオスは、メスに求愛し、子孫をつなぐことができます。
しかしコミュニティの構成員が少ない場合、幼鳥は歌を学ぶことができず、周囲に生息している他の種の歌を覚えてしまいます。
クレイツ氏は、「もしオスが奇妙な歌を歌っていたとしたら、メスは彼らと交尾しないかもしれない」と述べ、種を保護するためには、「動物が野生で生き残り、繁栄するために不可欠な“文化的特徴”にも目を向けるべきだ」と指摘しています。
キガオミツスイは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて「近絶滅種 (絶滅寸前)」に分類されています。
現在、一部の保護活動家によって、飼育下の個体を繁殖させ野生に戻すプロジェクトが進められています。
研究結果は、Proceedings of the Royal Society Bに掲載されました。

違う歌を歌っていたオスは健康状態もあまり良くなかったんだって

個体数が減れば減るほど、伝統を伝えていくのは難しくなる……
Reference:BBC
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