イギリス南西部に位置するデヴォン州のいくつかの川では、2013年頃から野生のビーバーが目撃されるようになりました。
ビーバーは飼育されていたものが逃げ出し野生化したものと考えられ、地元では捕獲や駆除の計画が持ち上がりました。
2015年には2組の家族だけが確認されていましたが、現在その数は8組に増加しています。
イギリスの野生のビーバーは、肉や毛皮などのために乱獲され、約400年前に絶滅しました。
政府は突然のビーバーの出現に対し、期間を設け、科学的な調査を行うことを決定しました。
ビーバーダムは洪水の勢いを止め野生動物を集める
英国エクセター大学のリチャード・ブレイジャー教授たちの科学者チームは、政府の要請を受け、2015年から5年にわたって川とビーバーの関係性について調査してきました。
チームは、川の上流に作られたビーバーダムが水の勢いを減らし洪水被害を抑えた例を筆頭に、「ビーバーには環境への利点が多くあり、駆除するよりも共存することのほうが望ましい」と結論づけました。
報告書は、ビーバーが川に含まれる糞尿や化学物質、肥料などの汚染物質をろ過する重要な役割を持っており、またビーバーの作る湿地帯が、カワガラスやカモなどの鳥に恩恵を与えていると指摘しました。
調査では、ビーバーダムが魚の数の増加に寄与していることも明らかになりました。
ある川では、ビーバーダムによって魚の生息数が37%多くなるという結果が出ています。
ビーバーが作ったダム (Franklin Vera Pacheco/CC BY-SA 3.0)
報告書はダムの利点だけでなく被害の実例も挙げています。
ビーバーの作るダムは、川が氾濫した際に水の流れを遅くする一方で、貴重な渓谷の農地に水を引き込むことがありました。
5年の調査期間中、対象となった河川流域250㎢のうちの5つの地点で、ビーバーダムによるものと思われる水の被害が確認されました。
あるケースでは有機栽培のジャガイモ畑が浸水し、また別のケースでは、川沿いの果樹園に侵入したビーバーが木をかじるなどの被害が見られました。
報告書はビーバーの被害について、「積極的な管理を行うことでそのほとんどは解決される」とし、木を守るためのワイヤーを設置したり、時折ビーバーダムを撤去したりするなどの方法について説明しています。
ブレイジャー教授は、「5年間にわたる詳細な調査の結果、ビーバーのプラスの影響はマイナスの影響を上回ると結論づけられる」と述べる一方、「ビーバーの恩恵を受けるのは、必ずしも費用を負担する人と同じではなく、下流での洪水リスクの低減は上流でのコスト上昇につながる可能性がある」とも指摘しています。
調査活動に参加したデヴォン・ワイルドライフ・トラストのマーク・エリオット氏は、「ビーバーたちが湿地の生態系で再び繁殖できることに驚いた」と述べ、今回の調査結果は、「川や湿地に新しい命を吹き込むビーバーの無限の能力を示したものだ」と強調しました。
またエリオット氏は、最近政府が承認した“柵のある環境に野生のビーバーを放つ”という計画について、「固有種であるのなら柵で囲む必要はない」と指摘し、「政府がしなければならないことは、特定の河川流域への野生動物の放流許可である」と話しています。
英国の環境・食糧・農村地域省は、デヴォン州でのビーバーの調査を引き続き行うとしており、野生のビーバーの処遇については今年の9月に決定が下されることになっています。
(その後、デヴォン州のビーバーたちには永住権が与えられました!)
ビーバーダムの周辺はいろんな生き物たちで賑わうんだよー
数百メートル規模のビーバーダムもあるとか……
Reference: The Guardian