アメリカ西海岸の乾燥地域に生息するゴミムシダマシ科の甲虫は、とてつもなく頑丈な体をしています。
古くから科学者は、この昆虫の標本をつくるのに大変な苦労を強いられてきました。
体長2センチほどの大きさの「Nosoderma diabolicum」は、別名「悪魔のような鉄の甲虫 (diabolical ironclad beetle)」と呼ばれています。
名前の由来は文字通り鉄のように硬い体にあり、その頑丈さは人間による踏み付けはもちろん、車の重量でさえものともしません。
この甲虫は飛ぶことはできませんが、その頑丈な体により寿命は長く、他の甲虫が数週間しか生きないのに対し7年近くも生きられます。
今回アメリカの研究者が、“悪魔のような甲虫”の頑丈さの秘密を解き明かしています。
車にひかれても平気!頑丈すぎる“悪魔のような甲虫”
カリフォルニア大学アーバイン校とパデュー大学の昆虫学者を中心とした研究チームは、Nosoderma diabolicumの体の構造を理解するためにいくつかの実験を行っています。
チームはまず生息地であるカリフォルニアの乾燥地域に赴き、Nosoderma diabolicumを含む数種類の甲虫類を捕獲しました。
その後甲虫に対し、「車でひくこと」を含む様々な種類の負荷をかけ、その頑丈さを測定しました。
結果、Nosoderma diabolicumは最大で149ニュートンもの負荷に耐えられることがわかりました。
これは甲虫の体重の39,000倍に相当します。
(他の甲虫は約3分の1の圧力で潰されてしまいました)
さらにチームは、電子顕微鏡やCTスキャンなどを使って、甲虫をさらに詳しく分析しました。
また、コンピューターモデルによる負荷のシミュレーションもあわせて行いました。
その結果、甲虫のタフさの秘密は、「鞘翅(しょうし、さやばね)」にあることがわかりました。
鞘翅は、飛翔に使われる後翅を保護している前翅の一部で、非常に硬い素材で作られています。
Nosoderma diabolicumは他の甲虫と違い飛ばないため、鞘翅は退化してさらに硬くなり、前翅とより強く結びついていました。
これは鞘翅と前翅が、衝撃から身を守るためのカバーのように機能していることを表しています。
鞘翅の接合部分。中央の形状が衝撃の緩和に役立っている (David Kisailus/Nature)
Nosoderma diabolicumの鞘翅はただ硬いだけではありません。
分析では、鞘翅に含まれるタンパク質の量が他の甲虫よりも多く、また左右の鞘翅の接合部分が、ジグソーパズルのピースのような形に嵌っていることがわかりました。
これらは上からの衝撃をやわらげ、力を分散させるのに役立っています。
今回の研究は、米国空軍が資金提供した800万ドルのプロジェクトの一つであり、甲虫やエビ、ビッグホーンといった硬い素材を身に着けている生物の生態を理解するために行われました。
Natureに掲載された研究の著者の一人であるカリフォルニア大学アーバイン校のデイビッド・キサイラス氏は、研究結果について、「丈夫で衝撃に強い材料の開発につながる可能性がある」と説明しています。
研究が進めば壊れにくい乗り物を設計できるようになるんだって
自分の体重の39,000倍に耐えられるなんてすごすぎる……
References: AP News,The Guardian