オーストラリアの固有種であるチドリ科の鳥ズグロチドリは、タスマニアや南オーストラリアなどの海岸地域に生息する鳥で、一度に数百キロを飛ぶことで知られています。
ズグロチドリは定住性で、砂浜や湖の沿岸で子育てをします。
しかし産卵シーズンが観光客の訪れる時期と重なるため、近年は営巣地が乱されることで個体数の減少が進んでいます。
現在保護団体は、絶滅危惧種となったズグロチドリを救うべく、識別タグを使った追跡調査を行っています。
営巣地を追われているズグロチドリ
先日、ニューサウスウェールズ州の最南端の町ナルーマでタグ付けされたズグロチドリが、850キロ北の町エバンス・ヘッドで目撃されました。
エバンス・ヘッドはシドニーの700キロ以上北にある海岸の町で、ズグロチドリの通常の営巣エリアからはかなり離れています。
今回見つかったズグロチドリは“T7”と名付けられた生後7か月の幼鳥で、専門家によると、この年齢の鳥がこれだけ長い距離を移動するのかなり珍しいことです。
エバンス・ヘッドで見つかったT7は、ニューサウスウェールズ州の南海岸の町ナルーマでタグ付けされていた (NSW National Parks and Wildlife)
オーストラリアで確認されている、鳥とコウモリの最長飛行記録は376キロです。
T7が途中でどのような行動をしていたのか(どこかで休んだのか、それとも一気に飛行したのか)は不明ですが、どんな目的があるにせよ、850キロの距離を移動するのは並大抵のことではありません。
ニューサウスウェールズ州国立公園野生生物局(NPWS)のレンジャーであるケイトリン・オブライエン氏は、「ズグロチドリがこの地域で見られたことは一度もなく、この鳥が生後7か月であることを考えると、ここに到達するまで850キロを旅してきたというのはとても信じられないことです」と述べています。
ズグロチドリは外的な要因がなければ、15年ほど生きることができます。
しかし開発や観光客、犬や猫その他の外来種など、周囲には様々な脅威が存在しており、寿命を全うできる個体はほんの一握りです。
NPWSによると、同州の現在のズグロチドリの個体数は65羽で、より南に位置する生息地でも急速に数が減少しています。
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ニューサウスウェールズ州の北海岸で、ズグロチドリが最後に目撃されたのは1985年でした。
定住に適していないこの地域にやってきたT7は、種に迫る危機を知らせる炭鉱のカナリアのような存在と言えます。
オーストラリアの鳥とその生息地を保護する活動を行っている、バードライフ・オーストラリアの広報マネージャー、ショーン・ドゥーリー氏は、「この鳥が生き残るには、できるだけ多くのつがいが巣をつくる必要があります。私たちは、海岸を利用しているのが人間だけではないことを意識しなければならないでしょう」と述べています。
NPWSは海水浴客に対し、ズグロチドリの営巣地に干渉しない行動をとるよう呼び掛けています。
ズグロチドリのヒナは体が弱くて、大人になるまで生き残るのは大変なんだって
安心して暮らせる海岸が見つかってほしいね
Reference: ABC News