2週間の調査で発見数ゼロ、絶滅の危機にあるオーストラリアの「ノコギリエイ」

動物
photo by fsamuels on flickr

頭部がノコギリのような形状をしていることから「ノコギリエイ」と名付けられている貴重なエイは今絶滅の危機に瀕しています。

あまりに特徴的な姿からスポーツハンティングの対象となったり、漁業に使われる網に誤って引っかかってしまったりと様々な理由で命を落としているのがその原因とされています。

 

オーストラリアのクイーンズランド州の監視チームは今年の9月、ノコギリエイの数を把握するために生息地の周辺を2週間かけて探索しましたが、1匹も遭遇することができませんでした。

ノコギリエイは見た目ですぐにそれとわかるノコギリ状の吻(ふん-頭部付近にある前方に突き出た器官)を持つ珍しいエイで、その大きさは最大で7メートルにも及びます。

ノコギリ部分は体長の4分の1もあり、そこから発せられる電気信号は近くの獲物の存在を知らせてくれる高性能探知機の役割を果たしています。

いくつかの分類を持つノコギリエイのほとんどはオーストラリアの北にあるカーペンタリア湾に生息しています。

最近の報告は、この湾に住むノコギリエイが減少しておりその原因の多くが漁業に関連しているとしています。

政府は保護のために資金を投じ、また海洋学者たちも対策を考えていますがなかなかうまくいっていないのが現状です。

 

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2週間の調査で1匹もノコギリエイの姿が確認できなかった

 

オーストラリアのシーライフシドニー水族館は今年の9月、カーペンタリア湾でノコギリエイの数を調べるために2週間の監視旅行の計画をたてました。

……しかし結果は散々でした。

 

水族館のニコール・ウェラー氏は、14日間の探索でただの1匹もノコギリエイと遭遇できなかったことを嘆きます。

 

少なくとも1匹は遭遇できるだろうと思っていました。しかしそれは叶いませんでした。

 

ウェラー氏たち探査チームは湾に注ぐ3つの河川の生息地を調べたものの、悪天候や濁った水などで作業は困難を極めました。

この生息地では過去5年の間に何度もノコギリエイが確認されています。

 

水族館の湾の調査を手助けした自然保護団体「Sharks and Rays Australia」の創設者で主任科学者であるバーバラ・ウェリンガー(Barbara Wueringer)氏は、この場所が世界的に見てノコギリエイの重要な生息地であると話します。

 

北オーストラリアはノコギリエイの5種のうちの4種にとって最後の拠点です。ここで何が起きているのかが重要です。

 

ウェリンガー氏はノコギリエイの減少には地元の漁業が深く関わっていると考えています。

彼女の組織はこの地域の漁師と密接な関係にあり、彼らが動物の福祉に対し決して無関心ではないことも知っています。

しかしウェリンガー氏は、漁師たちの漁の仕方や考え方はノコギリエイの減少に大きな影響を与えていると指摘します。

 

漁法によりノコギリエイは誤って捕獲されてしまう

 

特徴的なノコギリとユニークなお顔のノコギリエイ photo by orangemania on flickr

 

漁師たちは誤って網にかかったノコギリエイを素早く海に返すことはせず、まるでトロフィーのようにその珍しいノコギリの部分を――切り取って――持ち帰ります。

ウェリンガー氏は漁師たちにそうした行動をやめるように忠告する一方で、彼らが適切な方法でノコギリエイを解放する手段を持っていないとも話しました。

 

この地域の漁師が使う方法は主に「刺し網漁」と呼ばれるもので、網目の大きさにあった魚を効率的に捕獲できる反面、目的の魚以外の生物も網に絡めとられてしまいます。

ノコギリエイはその大きさと特徴のあるノコギリ部分の突起から、網に絡まればそこから抜け出るのは一筋縄ではいきません。

 

ジェームズクック大学のコリン・シンプフェンドルファー(Colin Simpfendorfer)教授は、データが少ないためノコギリエイの数について断言することはできないとしながらも、その数が歴史的に見て低い水準にあることは認めます。

 

私たちはノコギリエイの減少がこの地域の刺し網漁と関係があるのを知っています。ノコギリエイは漁の対象ではありませんが彼らは捕まっています。

 

シンプフェンドルファー教授もウェリンガー氏と同様に、捕まってしまったノコギリエイを迅速に解放するために何らかの対処が必要であることを強調しています。

 

クイーンズランド州漁業局が連邦政府に確認した、カーペンタリア湾漁業の野生生物取引業務の内訳によると、2003年から2017年の間に395匹のノコギリエイが混獲(漁業対象でない生物が混じること)によって捕獲されています。

現在WWF(世界自然保護基金)やAMCS(オーストラリア海洋保護協会)、Humane Society International(人道協会)などが、連邦環境局に対しノコギリエイを守る具体的な対策をとるように求めています。

 


 

環境大臣のスーザン・リー(Sussan Ley)氏は9月29日に、EPBC法(Environment Protection and Biodiversity Conservation Act-環境保護と生物多様性の保全に関する法)に基づく絶滅危惧種の優先順位にノコギリエイを加えたと発表しました。

リー氏のスポークスマンは「カーペンタリア湾の漁業におけるノコギリエイの混獲に関する懸念については十分認識している」と述べ、現在進行形で湾の漁業についての評価が進んでいると明らかにしています。

 

漁業局は、漁業関係者が網に誤ってかかってしまったノコギリエイをできるだけ傷つけずに海に返す技術について「追加教育」を受ける必要があると考えています。

またノコギリエイを捕獲し所持することが違法であることを周知させる必要があるともしていて、今後の動きが漁業関係者にとってどのような影響を及ぼすのかが注目されています。

 


 

漁業関係者の作ったデータでは、漁業によって捕獲されたノコギリエイの数は政府発表のものよりもかなり少なくなっていて、また実際には網にかかったノコギリエイの多くが生きた状態で海に返されたとする証言もあります。

ノコギリエイが絶滅を危惧された生物であるとわかってはいても自分たちが生きていくためには漁をしなければならない……生物多様性に対する危機が叫ばれる裏側には、現地で暮らす人たちの毎日の生活があります。

 

現在オーストラリアに生息している4種のノコギリエイはいずれも、IUCN(国際自然保護連合)が作成したレッドリストの“絶滅危惧”もしくは“絶滅寸前”に分類されています。

 


 

 

かなで
かなで

こんなにカッコいいのに数が減ってるなんてかわいそうだよー!

しぐれ
しぐれ

漁師の人にも生活があるし、漁の方法もすぐには変えられないだろうし……でも政府の対策がうまくいくといいね。

 

References:The Guardian