ヘビ咬傷と気温上昇に正の相関 暖かくなるとヘビに噛まれやすくなる

動物
(Peter Paplanus/Eastern Copperhead/Flickr)

世界保健機関(WHO)はヘビ咬傷を、人間に深刻な被害をもたらしながらも、最も顧みられていない熱帯病であると定義しています。

ヘビ咬傷(へびこうしょう・ヘビに噛まれること)には大きく分けて3つのタイプがあります。

1つ目は、毒ヘビに噛まれ毒が体内に入り込むものです。

ヘビが強い毒を持っていた場合、適切な治療により最悪の事態を防ぐことはできますが、そうでなければ、手足の切断や呼吸不全、出血性ショックなど、死亡を含む不可逆的な損傷につながるおそれがあります。

2つ目は、毒ヘビに噛まれても毒が注入されないケース(ドライバイト)です。

3つ目は、毒を持っていないヘビに噛まれるものです。

これらいずれのヘビ咬傷も、人間に身体的、経済的な害を及ぼす可能性があり、WHOは予防を進めるため、気候、人口密度、土地利用、生息地などを調査し、ヘビの理解を深める戦略計画を立てています。

 

WHOの方針を受けて、米国ジョージア州の研究グループが、州内で起きたヘビ咬傷と救急外来のデータを元に、ヘビと気温の関係について分析を行っています。

気温の上昇はヘビを活発にし、それに伴い人間が噛まれる可能性も高くなります。

 

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最高気温が上昇するとヘビに噛まれる確率が上がる

 

米国ジョージア州エモリー大学の環境科学者であるノア・スコブロニック氏を中心とした研究グループは、ヘビの活動と気温の関係性を調べるため、過去のヘビ咬傷の記録と、病院に運ばれた人の受診記録をすり合わせ、そこに気象データを当てはめました。

ヘビは外気温により体温が変動する変温動物(冷血動物)で、活発さの度合いは熱や湿度などの気象変数に大きく左右されます。

ヘビの中には、外が寒すぎる場合に「ブルメーション」と呼ばれる冬眠のような状態に入るものもいますが、世界的な気温上昇によりヘビの活動期間は長くなっており、それが咬傷につながっています。

ジョージア州は、爬虫類、特にヘビにおいてアメリカで最も生物多様性の高い地域で、生息している45種のヘビのうちの7種が、人間にとって致命的となりうる毒を持っています。

またヘビ咬傷による死亡事故が最も多いのもジョージア州で、ヘビの生態の理解は、最優先すべき公衆衛生上の課題となっています。

 

研究グループは、2014年1月1日から2020年12月31日までのジョージア州の救急外来記録を取得し、そこから毒ヘビを含むヘビによる咬傷と、ヘビ以外(蜂、クモ、サソリなど)の咬傷の数を記録しました。

その後、患者と病院の郵便番号を元に、それぞれの咬傷が起きた日の気象情報を確認し、気温がヘビに与える影響について分析を行いました。

7年の期間中、毒ヘビによる被害で来院したケースは3908件、毒を持たないヘビによる被害は1124件、その他の生物に噛まれたケースが65187件ありました。

季節別に見ていくと、ヘビ咬傷は夏に最も多く、次いで春と秋、冬の件数は全体のわずか2%でした。

 

ジョージア州に生息する毒蛇「Timber Rattlesnake (シンリンガラガラヘビ)」 (Peter Paplanus/Flickr)

 

分析が明らかにしたのは、気温の上昇とヘビ咬傷の間にある正の相関です。

具体的には、全期間を通じて、同日の最高気温が1度上昇するごとに、毒ヘビに噛まれる確率が5.6%、非毒ヘビに噛まれる確率が5.8%上昇しました。

最も強い相関があったのは春でした。

一方で、ヘビ以外の生物と気温との間にはわずかな相関関係しかありませんでした。

 

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ヘビを理解すればヘビ咬傷を減らすことができる

 

様々な有毒生物のなかで、なぜヘビだけが気温上昇の影響を受けるのかはよくわかっていません。

病院のデータはヘビの種類を特定していないため、どのヘビが気温の変化に敏感なのかも不明です。

分析では、春に起こる気温上昇が咬傷の増加に影響を与えていることが示されました。

これはヘビが夏に活発な生き物であることに関係しており、最高気温の更新が、季節の進行を知らせる“トリガー”として働いた可能性があります。

 

 

今回の研究は、気象変化とヘビの行動に焦点を当てたものであり、人間とヘビの相互作用については深く掘り下げていません。

ヘビ咬傷を防ぐには、屋外での活動や毒に対する知識など、人間側が注意あるいは努力できる部分が多く残されています。

研究に参加したエモリー大学の爬虫類学者であるローレンス・ウィルソン氏は、「ネガティブな出会いを減らすための重要な要素は教育です。私たちがヘビの生息地とニーズを尊重し理解している限り、たとえ毒ヘビであっても、ヘビと人間は仲良く暮らすことができます」と述べています。

WHOによると世界中で毎年約540万人がヘビに噛まれ、13万8000人が命を落としています。

 

研究結果はGeoHealthに掲載されました。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

都市部の拡大もヘビ咬傷が増えている要因の一つなんだって

かなで
かなで

暑い期間が長くなると生き物にもいろんな変化が出てくるんだね

 

Reference: Phys.org