頭部に黄色いとさかのような羽毛が生える珍しいオウムの仲間は、故郷から連れ去られ、今では限られた少数の地域にしか生息していません。
「コバタン (Yellow-crested cockatoo)」は東ティモール、インドネシアのスラウェシ島、小スンダ列島の森林地帯で見られるオウムの一種で、18世紀にペットとしてヨーロッパに入り、様々な博物学者によって記述されました。
以後、その特徴的な外見から、主な生息地であるインドネシアから流出を続け、1980年から1992年にかけては10万羽以上が合法的に輸出されました。
コバタンは現在、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて近絶滅種に指定されており、野生での個体数は2500羽未満と推定されています。
この絶滅危惧種は、インドネシアで激減しましたが、輸出先の一つであった香港では比較的容易に見つけることができます。
生物学者は香港の個体群が、種としてのコバタンの保全に重要な役割を果たすと考えています。
香港で違法に取引されるコバタン
絶滅危惧種の取引は法律で厳しく制限されますが、実際には違法な売買が後を絶たず、それらの多くはインターネットやSNSを介して秘密裡に行われています。
香港には野生生物を扱う大きな市場があり、そこでは爬虫類から珍しいペット、魚介類に至るまで様々な動物が取引されています。
これらは基本的には合法であるものの、中には違法な野生生物を扱う業者も存在します。
香港大学の保全法医学研究所の博士研究員であるアストリッド・アンダーソン氏は、研究の一環として香港の鳥市場を調査しているとき、そこでコバタンが売られているのをよく目にしていました。
コバタンはワシントン条約(CITES)に登録されている鳥で、「飼育下の繁殖施設からきたもの」でなければ取引することができません。
香港の漁農自然護理署(AFCD)によると、「商業目的でコバタンが輸入されたのは2004年が最後」であり、現在香港には、ワシントン条約に登録された繁殖施設や、コバタンを商業目的で所有するための有効な許可は存在していません。
市場で売られていたコバタンが野生の個体なのか、それとも繁殖施設の個体なのかを判別できないことに危機感を抱いたアンダーソン氏は、「安定同位体分析」を利用した評価方法を開発しました。
この手法は、羽毛中の炭素と窒素を測定し、その個体が主に何を食べてきたのかを分析するものです。
野生の鳥と飼育下の鳥では、食べているものが異なります。
コバタンなどのオウムの場合、野生では、様々な葉や新芽、花、果物を口にする一方、飼育下では、炭素比率が非常に特徴的なトウモロコシを多く含む餌が与えられます。
アンダーソン氏は、「これを市場のオウムに適用すれば、最近野生で捕獲されたものかどうかをテストすることができる」と述べ、検査費用も安価で結果も一週間で得られると説明しています。
野生生物の取引の監視とその難しさ
香港のコバタンは都市環境にうまく適応している (Charles Lam/flickr)
香港はコバタンだけでなく、ミミセンザンコウ、キジハタ、クロツラヘラサギなど、数多くの絶滅危惧種が取り扱われている地域です。
アンダーソン氏が関わった環境影響調査会社の2022年の報告によると、2015年から2019年の間に最大700種、400万頭の動物が合法的に輸入され、これらのうちの70%が絶滅の危機に瀕していました。
香港の立法評議会は2021年、密輸活動を取り締まるため、組織的かつ重大な犯罪条例に野生生物の違法取引を含める決定をしましたが、密輸業者は依然、香港を絶滅危惧種取引の拠点あるいは中継地点として利用しています。
希少な動植物の取引が無くならない主な要因は、リスクに対するリターンの大きさ、そしてそれを可能にする法律や制度の不備にあります。
AFCDは、飼育下で飼育されたオウムにその鳥がどこからやってきたのかを示す足環をつけることで、違法な供給源からの個体を識別できるとしています。
しかしこの方法は、ペットショップ以外の個体――個人の所有する鳥やインターネットで取引される鳥など――を監視することができません。
コバタンは高額で取引される鳥で、1羽だけで香港の平均月収(2022年で19,000香港ドル、日本円で約34万円)よりも高く売れます。
香港の動物虐待防止協会のフィオナ・ウッドハウス氏は、違法な取引について、「今では、野生生物の市場に行く必要はなく、Facebook上で簡単に行うことができる」と述べ、法執行機関が屋内に侵入し捜査するなどの対策をしない限り減らすことはできないと指摘しています。
WWF(世界自然保護基金)の定期調査によると、コバタンは現在でも市場で売りに出されており、オンライン上での秘密の取引も活発です。
WWF香港のジョビー・チャン氏は、「コバタンを扱う業者が断続的に見られる」と述べ、取引には、個人的なメッセージの送信や価格を開示するための隠されたキーワードなど、巧妙な手口が使われていると指摘しています。
香港のコバタンは種の保全にとって希望
2016年からコバタンの調査を始めたアンダーソン氏は、香港の個体群が種の存続に大きく寄与すると考えています。
1970年代に50羽程度だったコバタンは、今では200羽にまで増えました。
一方で、密猟や営巣地の不足などの問題で、個体数が頭打ちとなっているのも現状です。
研究チームは、これまでの羽根だけの分析から体全体の分析に移行し、DNAの情報を使って、鳥の起源や死因の詳細を明らかにしようとしています。
年齢や遺伝的健康状態、近親交配の有無などの情報は、個体がどこからやってきたのかの裏付けとなり、将来的に故郷であるインドネシアの群れを救う可能性につながります。
コバタンは通常樹齢100年以上の木の幹にできる空洞をねぐらとしますが、香港は第二次世界大戦で大規模な森林破壊を受けたため、古木が不足しています。
それでも香港のコバタンは独自の適応を続けました。
アンダーソン氏は、「コバタンはあらゆる逆境を乗り越えて、高度に都市化された環境で生き残ることができました。これは地球上の種全般の存続についての希望のメッセージです」と述べています。
日本でもコバタンが売られているけど、価格も含めて飼うのは簡単じゃないみたい
香港のコバタンは第二次世界大戦当時の総督府のコレクションが由来という説もあるんだって