米国ウィリアム・アンド・メアリー大学の考古学研究センター(William & Mary Center for Archaeological Research)は、2016年に、バージニア州南部の州間高速道路の拡張工事に伴う発掘調査を行い、南北戦争時代の野営地跡から複数の遺物を発見しています。
「Redoubt 9(リダウト 9)」と呼ばれる南北戦争の野営地では、缶の破片、銃弾、蹄鉄釘、制服のボタンなど当時使用されていた数多くのものが発見されましたが、中には全く用途のわからないものも含まれていました。
1840年から1860年の間にペンシルベニアで作られたその奇妙な青いガラスボトルは、上部が壊れていて、中には錆びた釘がたくさん入っていました。
発掘チームは当初、それを予備の釘を入れたものだと考えていました。
しかし民間の伝承に詳しい専門家は、イギリスから伝わった「魔女のボトル(Witch bottle)」ではないかと疑っています。
悪霊や病気を追い払う呪術「魔女のボトル」
魔女のボトルは17世紀のイギリスで生まれた呪術で、瓶の中に釘や針、フックなどの鋭利なものを入れた後、髪の毛や爪、尿などを加えて地面に埋めると、病気や悪霊を追い払い、魔女の呪文を打ち消す効果があると信じられてきました。
1681年の魔女のボトルに関する最初のものと思われる記述では、魔女のボトルを埋めて病気の妻を苦しみから救う男のことが書かれています。
これまでに見つかっている魔女のボトルはイギリスで約200個、アメリカでは12個以下です。
イギリスで発見された19世紀初頭の魔女のボトル (Portable Antiquities Scheme/Wikimedia Commons/CC BY 2.0)
発掘された魔女のボトルは、野営地の暖炉があった場所の近くに埋まっていました。
伝承では魔女のボトルは、熱い場所の近くに置くことでより効果を発揮するとされています。
発掘に関わったウィリアム・アンド・メアリー大学の考古学研究センターの所長ジョー・ジョーンズ氏は、ガラス瓶が将校の居たエリアの暖炉の近くで発見されたことは、これが魔女のボトルであることを示す強力な証拠になると話します。
ジョーンズ氏は「瓶が炉の近くに置かれていることで、火の熱が釘を熱し悪霊をその中に閉じ込めるのを助ける」と説明しました。
ではなぜこの場所に民間信仰レベルの魔女のボトルが置かれていたのでしょうか。
Redoubt 9は南北戦争初期の重要な戦闘「ウィリアムズバーグの戦い」の舞台の一つであり、元々は南軍(アメリカ連合国)が奴隷を使って建設した要塞でした。
その後戦局が進みRedoubt 9は北軍によって占領されますが、南軍は幾度となく奪還を試みたため、北軍の第5ペンシルベニア騎兵隊が要塞を守るために奮闘しました。
ジョーンズ氏は「魔女のボトルは人々が飢餓や戦争、脅威にさらされているときに一般的に使われるものだ」と述べ、この時代の北軍には実存的な脅威や恐怖があったと指摘しました。
そのうえで「南軍の攻撃の脅威と地元住民の敵意を考えるならば、北軍には要塞を守るためにあらゆる手段を尽くす十分な理由があった」と話しています。
このガラスボトルが南軍と地元住民からの敵意を封じ込めるために、北軍の兵士に利用されていたものなのかはわかりません。
瓶は割れていたため、一般的な儀式で使用される尿の存在を確認できません。
しかしジョーンズ氏は「これは民間の習慣の現れだと思う」と語り、この瓶が魔女のボトルであることに自信をのぞかせました。

民間のまじないに頼りたくなるほど当時の状況が緊張していたのだろうな

魔女のボトルは壊れずに隠されたままなら効果を発揮し続けると信じられていたとか……

イギリスの古い家からは今でも魔女のボトルが見つかることがあるんだって
References: CNN,Smithsonian Magazine
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