米国ウィリアム・アンド・メアリー大学の考古学研究センターは、2016年にバージニア州南部で発掘調査を行い、南北戦争時代の野営地跡から複数の遺物を発見しました。
「リダウト9 (Redoubt9)」と呼ばれるこの野営地からは、缶の破片、銃弾、蹄鉄釘、制服のボタンなど、当時使用されていた多くの物が発見されましたが、中には全く用途のわからないものも含まれていました。
考古学者が特に注目したのは、たくさんの釘が入った青いガラスボトルです。
当初これは、予備の釘を保管していたものと考えられていました。
しかしその後の調査でこのガラスボトルは、イギリスから伝わった「魔女のボトル (Witch bottle)」である可能性が高いことが判明しました。
魔女のボトルには、悲惨な戦況を有利にしたいと願う、北軍兵士の思いが込められています。
悪霊や病気を追い払う呪術「魔女のボトル」
魔女のボトルは17世紀のイギリスで生まれた呪術の一つで、釘や針、フックなどの鋭利なものを、魔法にかかっている(と信じている)人の髪の毛や爪、尿などと一緒に瓶に詰めて埋めると、病気や悪霊を追い払い、邪悪な力を打ち消すことができるというものです。
医療や科学に関する知識が乏しかった時代、人々は身に降りかかる災難の原因を超自然的なものに求め、それらから自身や家族を守る手段として、魔女のボトルをはじめ、お守り、馬の頭蓋骨、干した猫などの呪術的なアイテムを、住んでいる建物の地面の下に隠しました。
魔女のボトルに関する最初の記述は1681年で、ここでは、病気の妻を苦しみから救うために魔女のボトルを作る男のことが書かれています。
ボトルは壊れない限り効力があるとされており、通常は暖炉の下など、建物を解体しなければ見つからないような場所に埋められます。
現在までに見つかっている魔女のボトルは、イギリスで約200個、アメリカでは12個以下です。
イギリスで発見された19世紀初頭の魔女のボトル (Portable Antiquities Scheme/CC BY 2.0)
発掘された魔女のボトルは、野営地の暖炉があった場所の近くに埋まっていました。
暖炉は、魔女のボトルを埋める場所の有力候補です。
言い伝えでは、魔女のボトルを火の中に投げ入れ爆発させると、呪文が解けたり相手の魔女が死ぬとされています。
このボトルは偶然暖炉の近くにあったのではなく、おそらくは、戦争に関わっていた人物が何らかの願いを込めて埋めたものです。
発掘に関わったウィリアム・アンド・メアリー大学の考古学者であるジョー・ジョーンズ氏は、「炉の近くに置かれることで火の熱が釘を熱し、悪霊がその中に閉じ込められる」と説明し、「瓶が暖炉の近くで見つかったという事実は、これが魔女のボトルであることを示している」と述べています。
リダウト9は南北戦争初期の重要な戦いである「ウィリアムズバーグの戦い」の戦地の一つであり、元々は南軍(アメリカ連合国)が奴隷を使って建設した要塞でした。
その後戦局が進むと、要塞は北軍(アメリカ合衆国)によって占領されますが、南軍は幾度となく攻撃を仕掛け奪還を試みました。
記録では要塞を死守するため、北軍の第5ペンシルベニア騎兵隊が奮闘しました。
魔女のボトルは飢餓や戦争など、人々が脅威にさらされている時に使われる呪術であり、北軍と南軍が要塞を巡り争っていた時期は、まさに現実的な恐怖が存在していました。
ジョーンズ氏は、「南軍の攻撃と地元住民の敵意を考えるならば、北軍には要塞を守るためにあらゆる手段を尽くす十分な理由があった」と指摘し、発掘されたボトルについて、「魔女のボトルであり、民間信仰の現れである」と述べています。

呪術に頼りたくなるほど、当時の状況が悲惨だったんだろうな

イギリスの古い家からは、今でも魔女のボトルが見つかるんだって
References: CNN,Smithsonian Magazine