地球の上層部で太陽からの紫外線を防ぐ役目を持つオゾンは、実は地上では厄介者として知られています。
「地上オゾン」と呼ばれるオゾンは吸い込むと呼吸器に悪影響を及ぼし、植物の生育や収穫にも被害をもたらす可能性があることが過去の研究で明らかとなっています。
今回新しく発表された大規模な研究では、大気汚染された都市空間での生活が喫煙と同じくらいの影響を肺や呼吸器に与える、という結果が出ています。
これは地上オゾンのレベルが過去に比べて一段と増してきていることが大きな理由の一つです。
住んでいる場所によっては非喫煙者であっても肺に関わる疾患が急速に進行するおそれがあります。
毎日たばこ1箱を29年間吸い続けるのと同じ――深刻な都市部での大気汚染
医学誌JAMAに掲載された研究は、アメリカの6つの大都市圏に住む45歳から84歳までの成人7000人以上を対象に、10年以上にわたって大気汚染が身体に及ぼす影響について調査しています。
大気汚染には、微粒子、窒素酸化物、黒色炭素、そしてオゾンが含まれます。
大規模かつ長期間のデータは、各汚染物質への曝露が、通常は喫煙によって引き起こされるものである肺気腫や息切れなどの肺疾患と関連していることを突き止めました。
参加者は期間中、継続的なCTスキャンや肺活量の測定を受けており、研究開始時においては全ての人が健康な状態でした。
また喫煙者であるかや間接的に喫煙にさらされているかなどについてもデータに含まれました。
こうした条件のもと行われた研究は、もし大気中のオゾン濃度が他の地域よりも3ppb高ければ、それは毎日1箱のたばこを29年間吸い続けるのと同じだけの影響を肺に与える、という衝撃的な結果を明らかにしました。
研究に携わったワシントン大学の疫学者ジョエル・カウフマン氏は、近年増加している慢性的な肺疾患が非喫煙者にも広がっている理由に大気汚染が含まれていると述べています。
大気汚染、特に地上でのオゾンは人間に重大な健康被害をもたらします。
オゾンを吸い込むと肺の粘膜が炎症を起こし、喘息やアレルギー反応、肺気腫などの疾患につながります。
カウフマン氏は「肺気腫が喫煙だけでなく大気汚染によっても引き起こされるという結果に私たちは非常に驚いた」と語りました。
これまで大気汚染が健康にもたらす悪影響については多くの研究がなされてきましたが、都市の空気を吸い続けるだけで喫煙と同レベルの肺への健康被害が起こるという結果は今回の研究が初めて明らかにしたものです。
地上オゾンの量は地球の気温上昇により増加し続けている
Image by Gerd Altmann from Pixabay
研究結果によると一部の汚染物質――微粒子や窒素酸化物などは年々そのレベルが低下していることがわかりました。
しかし一方で地上のオゾンに関しては10年の研究期間中に上昇し続けました。
これは気候変動による地球の気温の上昇が関連しています。
研究著者の一人でコロンビア大学アービング・メディカル・センターの疫学教授グラハム・バー博士は、地上オゾンの急激な増加は化石燃料からの汚染物質と関連があると述べます。
地上レベルのオゾンは紫外線が化石燃料からの汚染物質と反応することで生成されます。このプロセスは熱波によって加速するため、化石燃料の排出量を制限し気候変動を抑制する追加措置を講じない限りこの傾向は続く可能性が高いでしょう。
WHO(世界保健機関)によると、世界の子供たちの多くが危険なほど汚染された空気を呼吸しており、それは多くの健康問題と結びついています。
バー博士は、どの程度までの汚染物質が人間の健康に悪影響を与えないで済むのか、については今後の研究を待つ必要があると述べています。
研究には不備な点も存在しています。
それは、ほとんどの人が日中過ごしている室内での大気汚染について測定されていない、という点です。
カウフマン氏は調査の限界について認めつつも、今回示された結果が人々に環境問題への関心を持たせ、また国のリーダーたちがよりよい環境政策に取り組むための糸口になるとその成果に期待を寄せています。
そう遠くない未来、人類は外出時にガスマスクを装着しているかもしれません。
未来の地球の環境のためにさらなる研究が進むことを願います。
References:CNN,ScienceAlert