今後50年で200億ユーロ以上の経済的損失、ヨーロッパに広がる致命的なオリーブの病気

自然
(StockSnap/Pixabay)

2013年にイタリアで確認された植物病原菌は、ヨーロッパの主要な食品の一つであるオリーブの木に大打撃を与えました。

「ピアス病菌 (Xylella fastidiosa)」と呼ばれる植物に感染するこの病気は、イタリアのオリーブの収穫量を減少させましたが、現在でも有効な治療法が見つかっていません。

 

オランダとスペインの研究者グループは、ピアス病菌がヨーロッパに広がり続けた場合の経済的損失についてシミュレーションを行っています。

最悪の場合、病原菌はオリーブの木に壊滅的なダメージを与え、これによりオリーブ製品の価格が上昇する可能性があります。

 

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ピアス病菌による今後50年間の経済的損失は200億ユーロ以上

 

オランダのヴァーヘニンゲン大学とスペインのバレンシア農業研究所の研究者たちは、世界で最も危険な植物病原菌の一つである「ピアス病菌」がヨーロッパ地域にもたらす経済的損失について、様々なモデルを使ってシミュレーションしています。

ピアス病菌はアワフキムシなどの樹液を吸う昆虫を媒介する植物の伝染病で、オリーブ以外にも桜や桃、アーモンドなど、現在知られているだけでも563の植物に感染します。

この病気にかかった植物は、葉の壊死や脱落、成長の遅延、水と栄養素の流れの減少などの症状が起き、最終的には枯れて死んでしまいます。

2013年にはイタリアのオリーブに甚大な被害をもたらし、この年以降の収穫量にも多大な影響を与えました。

現在耐性品種の研究が進められているものの、完全な治療法の確立には至っていません。

現時点で行われているピアス病菌に対する防御策は、感染した木と媒介昆虫の除去、および植物の生産と移動の制限のみです。

 

(AhmedWassim/Pixabay)

 

研究では、ヨーロッパのオリーブオイル生産の95%を占めるイタリア、スペイン、ギリシャを対象に、ピアス病菌に対する適切な措置が取られなかった場合を含む様々なケースを想定し、将来の経済的損失をはじき出しました。

これら3ヵ国は気候モデルに基づく予想では、細菌の繁殖に適した範囲に位置しており、全ての生産地域の85~99%がピアス病菌の被害を受ける可能性があります。

最悪の結果――すなわち病原体に対し何も行われず生産がストップした場合、最も経済的な損失を被るのはスペインで、その額は今後50年で170億ユーロ(約2兆円)に達します。

同様にイタリアの損失は50億ユーロ(約5,800億円)、ギリシャの損失は20億ユーロ(約2300億円)で、3ヵ国の合計額は優に200億ユーロを超えます。

 

研究では、病気に対抗できる耐性品種への植え替えや、感染した植物の除去などによって、被害額を抑えられることが示されました。

例えばイタリアでは、耐性品種の植え替えによって損失額を6~16億ユーロに抑えることができ、また病気の蔓延を防ぐ方法が見つかり年間の感染数が減少すれば、50年間で5~13億ユーロの損失を防ぐことができます。(耐性品種はまだ開発されていません)

しかし研究者は、今後何が起こったとしても、この病気は消費者に連鎖的な影響を与えることになると考えています。

 

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米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された研究の著者の一人で、オランダのヴァーヘニンゲン大学のKevin Schneider氏は、ピアス病菌の影響はオリーブの価格を上げるだけでなく、果樹園という観光的、文化的遺産も失わせると指摘します。

ヨーロッパのオリーブの木のいくつかは何百年も前のもので、生産者は幾世代にもわたって果樹園を受け継いできました。

治療法がない病気が蔓延した場合、果樹園は木を伐採し経営をストップせざるを得なくなります。

Schneider氏は、今のところ病気を治療することはできないが、政府や生産者は警戒を怠らずに科学的助言に耳を傾けるべきだと強調しています。

 

現在2種類のオリーブの木に、ピアス病菌に対するある程度の抵抗性が備わっていることがわかっており、研究者はこの分野の研究を大幅に強化する必要性を訴えています。

 


 

 

かなで
かなで

病気に強い品種が出てこないとオリーブオイルの値段が上がっちゃうかも

しぐれ
しぐれ

オリーブを守るために、遺伝子解析や昆虫を寄せ付けない土の研究なんかが進んでるみたいだよ

 

References: The Guardian,BBC