アマゾンの森林火災のその後――忘れられた地域で今も起きている“森林破壊”

自然
photo by Nate Johnston on Unsplash

今年の8月、ブラジルのアマゾン地域で大規模な火災が発生し、それが人為的なものだとして、ブラジル政府やボルソナーロ大統領が非難の矢面に立たされました。

「地球の肺」とも呼ばれるアマゾン地域で起きた火災は世界中の人々の地球温暖化に対する関心を高めました。

ボルソナーロ大統領はアマゾンの森林を伐採し農地の開発を進める政策をとっていたため、当初は非難に対し強硬な姿勢を見せていましたが、その後方向転換し、軍隊をアマゾンに派遣し60日間の焼き畑禁止令を出すなどして火災の発生を抑えるべく行動してきました。

こうした政府の対策が功を奏したのかアマゾンでの火災は、9月にはこれまでの3分の1にまで減少しています。

 

火災が世界を騒がせてから3カ月近くがたちますが、喉元過ぎれば熱さを忘れるのことわざの通り、現在人々のアマゾンに対する関心は急速に失われています。

しかし問題は収束していません。

火災や伐採の問題はアマゾンから別の地域へと移動しています。

南アメリカの森林破壊と温暖化の問題は見かけよりも悪い可能性があります。

 

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森林火災は減ったが“森林破壊”は減っていない

 

ブラジル国立宇宙研究所(Instituto Nacional de Pesquisas Espaciais-INPE)のアマゾン地域の観察によると、ブラジルのアマゾンの熱帯雨林は現時点までに少なくとも7,747平方キロメートルが、伐採や火災などによって失われています。

アマゾン地域の環境を監視、調査している非営利団体、IPAM(Instituto de Pesquisa Ambiental da Amazônia)の科学ディレクターであるアーニ・アレンカー(Ane Alencar)氏によると、これは過去最悪だった2008年を超えるものであり、予想ではこの数値はさらに30%高くなる可能性があります。

 

アレンカー氏は8月以降のブラジル政府の対応により森林火災が減少したことは事実であるとしながらも、森林破壊自体は止められていないと警告しています。

 

彼らは森林火災のレベルを低下させましたが、森林破壊のレベルは下げていません。

 

IPAMの調べでは、火災を免れた地域は単に伐採された木々が(今のところ)燃やされていないだけで、それらは来年になって燃やされる可能性があります。

伐採業者や開拓を進める農民たちは、ブラジル政府の方針(60日間の焼き畑の禁止)のほかに、例年この時期に起こる雨季のために木を燃やすことを先延ばしにしています。

 

8月に起きた一連のアマゾン火災は政府の努力によって収束しました。

しかしそれは森林破壊がなくなったことを意味していません。

アマゾンの森林破壊の問題は、ブラジルだけでなく他の地域にまで広がり始めています。

 

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人々の関心の外にある地域で起きている人為的な森林破壊

 

黄色い線で囲った地域がセラード・サバンナ Image:Public Domain on Wikipedia

 

アマゾンが多くの人に「地球の肺」として認識されていることは、同時にアマゾン以外の生物多様性を持つ地域を認識させ辛くしています。

ブラジルのアマゾン地域の南方には、WWF(世界自然保護基金)が“地球上で最も危険にさらされた生態系の一つ”と呼ぶセラード・サバンナがあります。

ブラジル高原に広がるセラード・サバンナは生物多様性に富む地域で、ここに生息する種の40%は他の場所で見ることができません。

ジャガー、アリクイ、コンゴウインコなどの地域特有の種は現在、森林伐採や草地の開拓などにより急速にその数を減らしています。

IPAMの試算では、ほとんどが大豆を栽培するために行われる土地開拓によって、セラード・サバンナの森林、草地、湿地の半分以上がすでに失われています。

セラード・サバンナでの生態系の破壊は、ブラジルのアマゾン火災に比べれば全くといっていいほど世界から無視されているのが現状です。

 

IPAMは2016年と2017年にセラード・サバンナで失われた樹木が吸収することのできたCO2の量は、イギリス全体が一年で排出する量、4億4,000万トンを超えると報告しています。

セラード・サバンナは、ブラジル政府のアマゾン火災の対策地域に含まれていません

アマゾンの火災の数が8月から9月にかけ劇的に減少したのに対し、セラード地域では逆に火災の数が増加しています。

火災の発生件数は去年に比べ78%増の22,989件にも及びました。

アレンカー氏は、伐採業者や農民たちは、アマゾンでの火災対策を尻目にセラードでやりたい放題することができた、と指摘しています。

 

ブラジル以外の地域でも農地のための森林伐採や人為的な火災が起きています。

ブラジルの隣国パラグアイでは、世界最大の湿地帯である「パンタナル」で保護されている森林が数多く失われています。

WWFは、「この地域の農民が牧草地の質を改善するために草原を燃やしたり森林火災を起こしているのが原因でありこれは人為的な災害である」と報告しています。

ブラジルの機関によるデータでは、パラグアイの火災は2018年より16%増加し、現時点で18,200件を超えています。

 

またボリビアでも5月以降、人為的な火災が原因で400万ヘクタール以上の森林が破壊されました。

ボリビアの火災はエボ・モラレス大統領に対する抗議行動へと発展しましたが、大統領は最近になって農民が農業のために樹木を伐採することを許可する法令を可決しています。

 

 

 


 

8月のアマゾンの大規模火災に対してはSNSを中心に世界的な抗議の渦が巻き起こりましたが、その後の大統領や政府の活動によって人々のアマゾンへの関心は急速に失われてしまいました。

世界がアマゾンの火災“だけ”に集中している間に、アマゾン以外の地域では着々と森林破壊が起きていたというのは何とも皮肉なことです。

しかし現地の農民や当事者にとっては、未来の地球の環境よりも、明日を生きられるかどうかが第一の問題であるのも事実です。

ブラジルをはじめとした南アメリカの生物多様性を抱える国々と、環境保護に関する――無責任と言えなくもない――発言や活動に勤しむ西洋諸国との間には、埋まりそうもない溝が存在しています。

 

 


 

 

 

しぐれ
しぐれ

アマゾンの火災が減った代わりに他の地域で火災が起きてるんだね

かなで
かなで

せっかくアマゾンが元に戻ったのになんだか悲しいよー

しぐれ
しぐれ

現地の人にも生活があるし……難しい問題だよね~

 

 

References:BBC