未来のタコは視力を失っているかもしれない――海中の酸素濃度が低下している影響

自然
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普段何気なく“見る”ことをしている私たちですが、この“見る”という行為に複雑なプロセスが必要なことはあまり知られていません。

光の粒子を視覚的な情報に変えることは大変な作業であり、人を含む生き物は対象を“見る”ために酸素に頼っています。

酸素を使って視覚的な情報を得るというこのプロセスは地上に住む動物だけではなく海の生物も例外ではありません。

海は水面に近いほど酸素の含有量が多いため、視覚に頼る海洋生物はその生活の中で何度も水面に向けて上昇する必要があります。

しかしもし水面近くの酸素が減っていたとしたらどうでしょうか。

海洋生物にとって酸素の不足は視力の低下や失明につながります。

 

残念なことに最近の気候変動の影響は、温暖化や氷河の消失だけでなく海の酸素レベルをも低下させています。

近い将来、多くの海洋生物は目が見えなくなってしまうおそれがあります。

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水中の酸素濃度によって海洋生物の視力は変化する

 

Journal of Experimental Biologyに掲載された研究は、イカ、タコ、カニなどの海洋無脊椎動物がその視力のために海中の酸素を利用していることを明らかにしました。

幼虫を低酸素環境に置いた実験では彼らの視力が低下し失明状態に陥ることを見出しています。

研究者は海洋無脊椎動物の視力に酸素が必要なことを示しつつ、同時に将来の気候変動による悪影響が彼らの視力に大きなリスクを与える可能性があると指摘しました。

 

カリフォルニア州ラホーヤのスクリップス海洋研究所の博士候補者である主任研究者リリアン・マコーミック氏によると、これらの種にとって酸素が低下することで起きる視力障害は日々の現実であると言います。

イカやタコ、カニなどの種は「垂直移動」と呼ばれる潜水手段を用い、日々水面近くからより深い場所までの間を行き来しています。

水面近くに来るのはもっぱら夜間で、そこは酸素が豊富で彼らの餌がたくさんあります。

また日中は捕食者から逃れるためにより深いところで身を隠しています。

マコーミック氏は海洋生物の垂直運動が酸素の少ない深い場所にも及ぶことから、彼らの視力と酸素との関係について調査することにしました。

 

実験は水槽の中に電極をつけた4種の海洋生物の幼虫を入れ、水中の酸素濃度を調整することで行われました。

電極は心電図なようなもので、幼虫が光に反応することでその活動を記録することができます。

 

水槽に入れられた幼虫が明るい光に照らされると水中の酸素濃度は減少しました。

これは彼らが何かを見る際に酸素を使っていることの証拠です。

その後水槽の酸素濃度を徐々に低下させていくと、幼虫の視力は明らかに低下していき、種による抵抗の差はあるものの最終的には60%から100%の間で視力が低下しました。

またイカやワタリガニといった種は特に敏感であるため水槽の酸素濃度が低下するとすぐに視力が失われました。

設定した最低の酸素濃度に達した際にはほとんど全ての幼虫の視力が失われてしまいました。
(その後通常の酸素状態に戻したところ幼虫の視力はほとんどまたは全て回復しています)

 

マコーミック氏はこれらの種は自然の状態であっても低酸素の状態を経験していると述べ、気候変動が進むとさらに悪影響がでるかもしれないと警告しています。

しかしなぜ気候変動が海中の酸素濃度と関係があるのでしょうか?

 

世界の海の酸素濃度は徐々に減少している

 

2017年にNature誌に発表された研究では、過去50年の間に世界の海洋の酸素濃度が2%減少していることが示されています。

また2100年までには濃度がさらに7%減少すると予測しています。

マコーミック氏は追加の研究が必要であるとしつつも、このまま気候変動が進み海中の酸素濃度が減少すると、脆弱な動物にとって致命的な結果になるだろうと語っています。

 

今回実験されたような海洋生物は餌をとる際に水面近くまで上昇する必要があります。

そこでは豊富な酸素のおかげで視力を使うことができ、餌をとったり捕食者から逃れたりすることができます。

しかし海中の酸素濃度が低下すると、これまでのように餌を探したり敵から逃げたりすることができなくなる可能性があります。

マコーミック氏は、視覚と酸素濃度が海洋生物の生命維持にどれだけ重要な役割を担っているのかについてさらに研究すべきだと述べています。

 


 

低酸素状態に苦しんでいた幼虫がその後しっかりと視力を回復させたことには生命の奥深さを感じずにいられません。

気候変動や温暖化など地球の環境を取り巻く状況が変化していますが、海洋生物が末永く今の生活を続けていけるようになってほしいものです。

 

 

References:LiveScience

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