アメリカのスクリップス海洋研究所の研究者はタコやイカ、カニなどの海洋生物が、近い将来視力を失うかもしれないと報告しています。
人間を含む「何かを見る」生き物は、光の粒子を視覚的な情報に変換する際に酸素を消費します。
酸素は地上では豊富ですが、海の中では水面近くのごく限られた範囲にしかありません。
現在進行中の気候変動は、温暖化や氷河の消失とともに海洋の酸素濃度の減少も引き起こしています。
これは視覚に頼る海洋生物の視力を失わせるだけでなく、生態そのものにも大きな影響を与える可能性があります。
海洋生物の視力は酸素濃度によって変化する
スクリップス海洋研究所のリリアン・マコーミック氏たちの研究チームは、酸素濃度が海洋生物の視力にどんな影響を与えるのかを調べる実験を行っています。
実験に使われたのはイカやタコ、カニなどの「垂直移動」を行う生き物です。
彼らは酸素と餌の豊富な水面付近と、より暗く酸素の少ない水深の深い場所を行ったり来たりしながら生活しています。
(MartinStr/Pixabay)
実験では、水槽に電極をつけた海洋生物の幼虫を入れ、光を当てながら酸素濃度を調整していきました。
電極は心電図のようなもので、光に対する反応を記録することができます。
実験結果は、幼虫の光に対する反応が、酸素濃度が減るにつれ鈍くなることを示しました。
これは幼虫が光を感じる、つまり何かを見るときに酸素を使用していることを裏付けています。
極限にまで酸素濃度を減らした場合、幼虫の視力は最大100%低下しました。
種によって視力への影響の度合いは異なりましたが、なかでもイカやカニは酸素濃度が減るとすぐに視力を失いました。
マコーミック氏は、「イカやタコ、カニといった種は、自然の状態でも既に低酸素を経験している」と述べ、気候変動が進んだ場合さらに悪影響が出てくるだろうと警告しています。
(幼虫の視力は水槽の酸素濃度を戻すと回復しています)
世界の海の酸素濃度は確実に減少傾向にあります。
Natureに掲載された2017年の研究では、過去50年の間に、世界の海洋の酸素濃度が2%減少したことが示されています。
この研究は、2100年までに酸素濃度がさらに7%減少すると予測しています。
海洋生物の多くはその生活の中で、餌をとるために水面近くまで上昇します。
この領域は豊富な酸素があるため、視力を使って餌をとったり捕食者から逃れたりすることができます。
しかし海中の酸素濃度が下がると状況は変わります。
目が見えなくなったイカやタコやカニは、餌を獲得できず、敵から襲われるようになります。
マコーミック氏は、「海中の酸素濃度が減少すれば、脆弱な生き物にとって致命的な結果になる」と述べています。
研究結果はJournal of Experimental Biologyに掲載されました。
目が見えなくなったら生きていけなくなっちゃうよー
気候変動はいろんなところに影響を与えてるんだね
References:LiveScience
(※2019年5月の記事に加筆修正を加えました)