「グラスピー (Grass pea)」と呼ばれるマメ科の植物は、病気に強く他の作物が枯れてしまうような環境でも順調に育つため、“保険作物”として栽培されることがあります。
しかしグラスピーには、食べると下半身麻痺を起こすという致命的な欠点があります。
グラスピーの毒素は調理方法によって低減できますが、この過程で栄養素も失われるため、これを主食とする人はさらに多くのグラスピーを食べることになり、その結果毒素が体内に入ってしまうという悪循環が起こります。
グラスピーによる疾患は「ラチルス病」として知られ、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの時代には既に記述されていました。
グラスピーは現在、エチオピア、エリトリア、インド、バングラデシュ、ネパールなどで栽培されていますが、これらの地域が災害や飢饉に見舞われた場合、ラチルス病が蔓延するのは時間の問題です。
イギリスの研究者グループは、グラスピーをより安全な作物として栽培できるよう、遺伝子改変を含む実験に取り組んでいます。
毒性の低いグラスピーは、将来起こり得る食料不足や主要作物の収量低下に対する、効果的な解決策になる可能性があります。
毒性の低いグラスピーは食料危機を救う
英国ノーフォークの植物研究機関であるジョン・イネス・センターの科学者チームは、未だ多くの国で栽培されているグラスピーから毒性を取り除く研究を始めています。
グラスピーは毒のある状態でも、よく水に浸し、他の食べ物とバランスよく摂取した場合それほど危険ではありません。
しかし価格が安いため貧しい人たちの主要な栄養源になりやすく、これがラチルス病の蔓延につながっています。
グラスピーから毒性を取り除くことができれば、病気を防ぐだけでなく、増え続ける地球の人口を支える食材としても利用できます。
ジョン・イネス・センターのプロジェクト科学者であるアン・エドワーズ博士は、「近い将来、私たちは安全なグラスピーを作り、栄養不足で加熱している地球に、とても貴重な作物を提供できるようになるでしょう」と述べています。
グラスピーの改良の可能性は、ゲノムを解析することによって生まれました。
グラスピーの毒は「β-L-ODAP (ODAP)」と呼ばれる神経毒で、その生成段階には二つの酵素が使われます。
分析ではこのうち、光合成に関連する酵素が、触媒としてODAPの生成に作用していることが分かりました。
一方でこれらの酵素が植物全体の生育に果たす役割については不明な部分があり、安易に取り除いてしまえば、毒性と共にグラスピーの長所である耐久性をも失いかねません。
現在ジョン・イネス・センターでは、さらに安全なグラスピーを作るため、敷地内での温室試験が進められており、レバノンとモロッコの農業機関でも、改良グラスピーを乾燥地域で育てる試験が始まっています。
またグラスピーの栽培が盛んなエチオピアでは、地元の品種と低毒性のグラスピーを交雑させる試験が行われています。
グラスピーは古くから世界各地で栽培されてきた作物であり、丈夫かつタンパク質が豊富で、環境の変化にも強いという長所があります。
一方で小麦や大豆、コメなどの作物は、近年著しく進んでいる気候変動の影響をダイレクトに受け始めています。
毒性の少ないグラスピーは、主要な作物がそのポテンシャルを発揮できない間、本当の意味での“保険作物”として重宝されるようになるかもしれません。
エドワーズ博士は、「気候変動がさらに進む将来に備えるなかで、干ばつや洪水、塩水の浸水に対処できる作物が必要になります。グラスピーは他の豆類よりもそのような条件によく耐えることができます」と述べています。
グラスピーは日陰以外ならどこでも育って土壌にも良い植物なんだって
毒がなくなれば食べてみたいけどちょっと怖いかも……
References: John Innes Centre,The Guardian