NASAの科学者は、地球上の多くの氷を有する7つの地域で急速に氷河が解け始めており、今後、淡水を必要とする人々の生活に影響が出てくる可能性があると報告しています。
NASAのジェット推進研究所(JPL)の科学者は、ドイツと共同で行った重力観測ミッションで得られたデータを使い、地球上の氷の損失量を測定しました。
その結果、アラスカ、カナダ北極圏、南アンデス、高山アジア、ロシア北極圏、アイスランド、ノルウェーのスヴァールバル諸島の7か所で、既に大量の氷が融解していることがわかりました。
NASAの新しいデータは、温暖化による気温の上昇が、氷の消失範囲を押し広げていることを示しています。
世界7つの地域の氷の消失量は年間2800億トン
NASAとドイツ航空宇宙センターは、2002年から共同で、「GRACE (Gravity Recovery and Climate Experiment)」と名付けられた、衛星を使った重力観測ミッションを行ってきました。
地球上の質量の分布を把握し重力のわずかな変化を測定するGRACEは、氷の消失がどの地域でどの程度進んでいるのかも同時に明らかにすることができます。
JPLの上級科学者で、カリフォルニア大学アーバイン校の地球システム科学の教授であるイザベラ・ベリコーニャ氏たちの研究チームは、2017年に終了したGRACEのデータと、2018年から開始された後継ミッションである「GRACE Follow On」のデータをつなぎ合わせ、2002年以降の地球上の氷の消失量を測定しました。
その結果、今回特定した7つの地域で大量の氷の消失が確認され、消失量の年間平均が2800億トンにも及ぶことが明らかになりました。
この地域で2002年から2019年までに失われた氷の量は、13ミリメートルの海面上昇に相当します。
しかし1年ごとの損失量は均等ではなく、2002年が海面上昇幅0.7ミリメートル相当だったのに対し、2019年は0.9ミリメートル相当と、年を追うごとに氷の解けるスピードは速くなっています。
解け始めているスヴァールバル諸島の氷河 (Credits: NASA/John Sonntag)
過去の研究では、グリーンランドや南極などの、最も寒い地域の氷が既に解け始めていることが立証されています。
GRACEのデータはそれらに加えて、氷の消失がさらに広い範囲に及んでいることを示唆しています。
ベリコーニャ教授は、「南アメリカのアンデス山脈と高山アジアでは、氷河が数億人の飲料水と灌漑の主要な供給源になっている」と指摘し、「氷河という資源へのストレスは、経済活動と政治的安定に大きな影響を与える可能性がある」と警告しています。
研究者は、18年以上にわたるGRACEとGRACE Follow Onのデータは、世界の何十万とある氷河をほぼ正確に測定し、その理解を深めることに貢献したと強調しています。
温暖化が海面上昇につながることは多くの人が理解していますが、山岳地帯の氷河の融解がその地域で暮らす人々にどのような影響を与えるのかについては、ほとんど関心が持たれていません。
ベリコーニャ教授はGRACEの今後の運用について、「2つのGRACEは、山岳氷河の運命について正確で信頼できるデータを提供している」と説明し、「将来の海面変動の理解だけでなく、淡水資源の管理においても重要な役割を果たすだろう」と述べています。
温暖化は山岳地帯の人たちの暮らしにも影響を与えるんだね
海面上昇で陸地が減ると人間の住む場所がどんどん狭くなっちゃうね
References: NASA