年々上昇し続けている世界の気温は人間や動物だけをうんざりさせているわけではありません。
植物や、人間にとって重要である穀物や野菜、果物といった作物も気候変動の影響を受けています。
最近発表された気候変動による政府間パネルの土地利用に関する報告書は、気候変動による気温の上昇が食料不足を招くだけでなく食料自体の持つ栄養価も低下させていることを明らかにしています。
気候変動は私たちの口にする食料品にも少しずつ悪影響を与え始めています。
気温の上昇は作物の栄養価を低下させる
報告書によると、気候変動による気温の上昇は食物の栄養価を低下させる可能性があります。
例えば、高い二酸化炭素レベルで栽培された小麦はそうでないものに比べて、たんぱく質が6~13%、亜鉛が4~7%、鉄分が5~8%それぞれ少なくなります。
報告書に関わったNASAのゴダード宇宙科学研究所の上級研究員シンシア・ローゼンツヴァイク氏は、高いレベルの二酸化炭素環境で栽培された食物がその栄養レベルを低下させていたことは過去の研究でも示されていたと述べます。
そして現在のヨーロッパで起きているような異常な熱波などにより、食料システムが既にある程度の緊張を抱えていると懸念を示しました。
食物の栄養不足は、気候変動がもたらす影響について追跡している科学者たちの懸念事項の一つです。
食物の栄養価が低下するということは、適切な量を食べることができない場合、身体的な機能の低下を引き起こす可能性があることを意味しています。
世界には満足に食べることのできない人たちがいます。
この食料不足の問題には世界が取り組んできた実績があります。
1990年代には10億人以上が食料不足に苦しんできましたが、2015年にはそれが約8億人にまで減少しました。
これ自体は素晴らしい成果と言えます。
しかし今回の報告書はこの偉業を台無しにし、人々の栄養不足をさらに加速させるおそれがあることを明らかにしています。
気温上昇により年間で35兆カロリーが作物から失われる――世界で消費されるカロリーの1%に相当
世界で栽培される上位10種の作物(大麦、キャッサバ、トウモロコシ、アブラヤシ、菜種、モロコシ、大豆、サトウキビ、小麦)について今年の5月に発表された報告では、それらの種のカロリーは年々低下しており、その合計が35兆カロリーであるとしています。
この35兆カロリーは世界で毎年消費されるカロリーの約1%に相当します。
報告書の著者の一人であるミネソタ大学のディーパック・レイ氏は、既に約5000万人分のカロリーが年間で失われているとし、「温室効果ガスの削減をしない限り、将来的にはさらに多くの損失が発生するだろう」と警告しています。
気候変動による作物への影響の度合いは地域によって異なりますが、特に所得の低い国にとっては大きな問題となります。
レイ氏によれば、サハラ以南のアフリカ地域や、アジア、インドなどの一部においては、貧困などと相まって飢餓がさらに広がるおそれがあります。
また気候変動は作物の栄養価だけでなく収穫量にも悪影響を与えています。
植物生理学者のルイス・ジスカ氏が過去にアメリカ農務省で行った調査では、CO2レベルの上昇が米などの特定の農作物の栄養価に悪影響を及ぼすだけでなく、その収穫量も減らしていることがわかりました。
これは花粉を媒介し作物の成長を助けているミツバチの数の低下と関連しています。
ジスカ氏によると、ミツバチは最近の気候変動による気温の上昇でその数を急激に減らしています。
こうした気候変動や気温の上昇がもたらす作物への影響については、いまだ具体的な対策が存在していないのが実情です。
2015年のパリ協定で世界の首脳たちが温室効果ガスの排出を抑えようと協力姿勢を見せた一方で、アメリカのトランプ大統領は2017年に協定からの離脱を表明しました。
気候変動がもたらす悪影響は、一つの国だけにとどまらず、地球規模で対処しなければならない人類共通の課題です。
ジスカ氏は、食料こそが政策立案者が検討すべき最も重要な問題の一つであると考えています。
全ての憎しみと不安は食べる量が少ないことから生じます。ですからこの問題に今すぐ適応することが非常に重要です。
人間は食べなければ何もできません。
増え続ける人口を支え気候変動の影響から作物を守るために、人類には迅速な行動が求められています。
References:CNN