巨大帝国が滅んだ原因に新たな説、気候変動がもたらす干ばつと食料生産への影響

自然
Image by David Mark from Pixabay

紀元前912年頃に出現した「新アッシリア帝国」は地中海からエジプト、そしてペルシャ湾に至るまで広大な領域を支配した超大国でした。

歴史は新アッシリア帝国が300年近くにわたり世界に覇を唱えた後、紀元前609年頃に崩壊したことを知っています。

古来から巨大な国は様々な理由で消失してきました。

戦争や飢餓、政治など、大きな国が崩壊するときには必ず何らかの原因があります。

最近になって科学者たちは、人類の築き上げた巨大な帝国がいとも簡単に崩れ去る要因の一つとして、気候変動に注目し始めています。

古代の気候を研究している科学者によると、新アッシリア帝国を崩壊に導いたのは当時の急激な気候の変動でした。

 

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帝国崩壊の原因は、気候変動が農業や経済に打撃を与えたこと

 

新アッシリア帝国は当時世界最大の版図を誇り、鉄の武器で武装した最初の人たちの帝国でもありました。

新アッシリア帝国の軍隊は高度に訓練され、次々と周囲の国を滅ぼし傘下に加えていきます。

しかし永遠に続くかと思われた帝国の栄華も、結局は300年ほどで終焉を迎えることになります。

紀元前630年頃に偉大な王「アッシュールバニパル」が死去すると、その王位継承権を巡って内戦が勃発し、ほどなくして帝国は崩壊してしまいます。

 

アッシュールバニパルのライオン狩り Credit: Carole Raddato,Wikipedia

 

当時の資料は多くないため、歴史学者は、新アッシリア帝国が崩壊したのは、アッシュールバニパルの死後に起きた内戦が主な原因だと考えています。

しかし一部の科学者は、この時期の気候が農業や経済に大きな打撃を与えたことが帝国崩壊の遠因になったのではないか、と指摘しています。

 

Science Advances誌に掲載された研究の著者の一人で、古気候学者(過去の気候を研究する学問)である、カリフォルニア州立大学のアシシュ・シンハ教授は、帝国の崩壊について次のように述べます。

 

約2世紀にわたる高い降水量と高度な農業生産によって帝国の都市化は進みました。しかし紀元前7世紀に気候が大規模な干ばつに移行したため、それを持続するのは不可能でした。

 

帝国の崩壊に内戦が大きく影響を与えているのは確かです。

しかし教授は、気候変動による干ばつ期への移行が農作物の収穫を減らし、それが政治や経済の不安定につながったことも大きな原因の一つではないか、と考えています。

 

シンハ教授のグループはこの時代の気候の証拠を調べるため、イラク北部にある「クナ・バ洞窟」から石筍(せきじゅん――洞窟の天井から滴り落ちた水分に含まれる物質が地面に蓄積したもの)を採取し、洞窟に流れ込んだ水に含まれる2種類の酸素の同位体の割合を調べました。

この方法は当時の降雨レベルに光を当てることができます。

研究グループはこの結果をトリウム230の年代測定値と合わせ、紀元前925年~550年の間、つまり新アッシリア帝国が誕生してから崩壊するまでの間に、2つの異なる気候があったことを突き止めました。

最初の気候は紀元前725年頃まで続いたもので、平均的な状態よりも湿潤でした。

2番目の気候は紀元前675年から550年にかけてのもので、これまでよりも非常に乾燥し、大きな干ばつが起こっていたことがわかりました。

シンハ教授は「厳しい干ばつに見舞われると1つの地域だけでなく、より広範囲に影響を及ぼす傾向がある」と語り、当時世界最大の版図を持っていた新アッシリア帝国が崩壊したのは、湿潤期から乾燥した気候へ変化したことが大きく影響していると結論づけています。

 

現代社会が当時の気候変動から学べる事

 

当時の気候の変動については、クナ・バ洞窟からのものだけでなく、イラク北部の様々な地域の洞窟や湖でも同じような結果を示す証拠が得られています。

また最新の衛星データによると、この地域の土壌が雨量に対して非常に敏感であり、特に干ばつが続いた場合、広い範囲にわたって食料生産に大きな影響を与えることがわかっています。

具体的には1999年から2001年にかけてと、2007年から2008年にかけて起きた厳しい干ばつは、深刻な作物の不作と家畜の死をもたらし、イラク北部の社会的困難につながりました。

 

シンハ教授は、新アッシリア帝国の崩壊が気候変動によるものだという事実は、現代に生きる人々にとっての警鐘になるかもしれないと話します。

 

人間の気候に対する影響力は自然の変動を上回っているかもしれません。

 

教授は現代の気候変動が起こしかねない干ばつは、今から2,500年以上前の新アッシリア帝国で起きたものよりも、もっと厳しいものになるかもしれないと警告しています。

 

 

 


 

地球はその歴史の中で何度も気候変動を経験しており、その都度生き物や植物が死滅してきました。

今回の研究結果は、古代の巨大帝国がいかにして滅んだのかという疑問に、気候変動という新たな見解を加えたものです。

当時の気候変動は地球の気候サイクルによって生み出された自然なものでした。

一方、現代の気候変動は少し様相が異なります。

ガソリンも電気もなかった新アッシリア帝国の時代と比べて現代は、化石燃料や人為的に生産される大気汚染物質であふれています。

 

現代の気候変動が、これまで幾度となく繰り返されてきた自然のサイクルの一部であるのかはわかりません。

しかし少なくとも歴史は、気候変動が一つの大帝国を滅ぼしたことを証明しています。

 


 

 

ふうか
ふうか

気候が湿潤から乾燥に変われば食料生産に影響が出てくる。食べられなければどんな帝国も滅びるのは自明だな

せつな
せつな

現代の気候変動が人為的なものなのかはわからないという意見もある……

しぐれ
しぐれ

でも歴史から学ぶなら、気候変動についてみんなで考えていかなきゃならないのは確かだと思うな

 

 

References:The Guardian