英国の研究者ロジャー・タイアース氏は今年の5月、学術研究のために中国に足を運びました。
彼は近年注目されている、飛行機の温室効果ガス排出問題に対し具体的な行動をとるべく、1カ月以上をかけて電車を使って目的地に向かうことにしました。
通常のフライトにかかる費用の5倍(2,500ドル以上)をかけてまでそれを行う理由は気候危機です。
タイアース氏は、国連の気候変動の専門家が2018年に指摘した「地球温暖化による壊滅的な被害を回避するためにはあと11年未満しか猶予が残っていない」とする声明を耳にしたときに、飛行機に乗るのをやめる決意をしました。
気候に影響を与えるものは飛行機だけではありませんが、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんなどの発言や行動などにより、現在多くの人が気候危機への対策として飛行機に乗ることをボイコットし始めています。
飛行機に乗るのをやめる「フライトフリー」キャンペーン
スウェーデンの活動家マヤ・ローゼン氏は、2018年に、10万人が一年間飛行機に乗らないことを奨励する「フライトフリー」キャンペーンを開始しました。
オンラインでの賛同者は14,000人だけでしたが、ローゼン氏はこのキャンペーンにより多くの人が気候危機の緊急性を認識するようになり、電車での移動を選択するようになったと話します。
フライトフリーキャンペーンは、電車で移動する人々が「#flygskam」と「#tågskryt」のハッシュタグをつけてSNSに投稿をしたことがきっかけとなり大きなうねりを引き起こしました。
この2つのスウェーデン語は、英語で「Flight shame」と「train brag」、つまり飛行機に乗るのは恥であり、電車に乗ることをもっと自慢しようという意味合いがあります。
こうした草の根の運動は、実際に鉄道会社によって効果的であることが示されています。
2019年の5月にスウェーデン鉄道が行ったアンケート調査によると、回答者の37%が、可能であれば飛行機ではなく電車で旅行することを選択しました。(一年前の同じアンケートでは20%の人が電車を選択しています)
スウェーデン鉄道は「気候への恐怖のおかげで鉄道旅行は急上昇している」と述べています。
一方、スウェーデンの10ある空港を運営している企業Swedaviaは、今年7月の国内の旅行者数が前年に比べ12%減少したと発表しました。
12年前に飛行機の利用をやめたローゼン氏は、フライトフリーキャンペーンのような集団的な誓約が、個人では難しい課題を取り組みやすくしていると述べます。
気候危機への取り組みの問題の一つは、個人としてそれをやることに意味がないと感じてしまうことです。フライトフリーキャンペーンの目的は、私たちが一緒にこれを行えば実際に大きな違いを生むことができると人々に知らせることにあります。
飛行機に乗ることをやめて電車に代えた場合、いくつもの問題が出てくるのは確実です。
まず目的地に着くまでの時間がかかります。
移動に飛行機を選択する人は、時間を買っています。
また飛行機の二酸化炭素排出問題で取り沙汰される疑念として、飛行機に乗るのをやめたところで温暖化に影響を及ぼす割合はたかが知れているのではないか、という考え方があります。
飛行機の二酸化炭素の排出量は、エコノミーとファーストクラスの間だけでも大きな違いがあります。
ファーストクラスは客数が少ないため、それだけ一人当たりの排出量はエコノミーと比べて高くなります。
しかし電車もまったく二酸化炭素を排出しないわけではありません。
ではどうして世界中で飛行機だけがやり玉に挙げられているのでしょうか。
一回のフライトで排出される一人あたりの二酸化炭素は、一年間の暖房利用で排出される量と同じ
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航空産業は、人が生み出す二酸化炭素排出量の2%を占めています。
現在の航空利用状況が続くと仮定すると、2050年までにこの割合は22%にまで上昇すると予想されています。
欧州委員会は、ロンドンからニューヨークへの復路で発生する一人あたりの二酸化炭素の量は、ヨーロッパに住む一人の人が一年間の暖房利用で生み出す二酸化炭素の量とほぼ同じであると報告しています。
たった一回のフライトでも、一人あたり、一人の年間の暖房利用に匹敵する量の二酸化炭素が排出されます。
英国のグランサム気候変動環境研究所は、多くの航空会社の長期的な環境戦略について不明なままであるとしています。
290の航空会社で構成される航空団体「国際航空運送協会(IATA)」は、2050年までに二酸化炭素の排出量を2005年の半分のレベルに削減することを目標にしています。
しかしIATAの広報担当は、航空業界がいまだ成長中であることを理由に、目標の達成は困難かもしれないと話しています。
それでも排出量削減のために、持続可能な航空機燃料、効率化対策、ハイブリッドや電気航空機などの新技術の組み合わせを使用していく計画があるとしています。
航空業界の環境への取り組みは、彼らが主張するほど簡単に達成できない可能性があります。
カリフォルニア大学バークレー校の気候科学の教授、デイビッド・ロンプス氏は、航空業界が掲げる新技術が世に出るにはかなりの技術的な進歩が必要であると指摘しています。
教授によると、2040年までに全ての新車の半分に搭載されると予測されているバッテリーには、飛行機を長距離移動させるほどの力はありません。
飛行機が現在使用している燃料からよりクリーンなエネルギーへと転換するためには、さらなる技術の発展が必要になります。
一方で電車には少なからず可能性があります。
ロンプス氏は、クリーンな電気が電車に供給されることが二酸化炭素の削減につながるとし、人々に対し、気候危機に対して行動を起こすのなら、解決の一部になる可能性がある産業を後押しするよう勧めています。
グレタさんをはじめとした若い世代の環境活動家については賛否両論があり、称賛する声もあれば偽善だとする向きもあります。
現代の生活で二酸化炭素の排出をゼロにすることは不可能なことです。
しかしフライトフリーキャンペーンのような人々が集まって行うことのできる取り組みは、たった一人で危機に挑むよりは大きな効果を生み出せる可能性があります。
環境活動家をバッシングしても二酸化炭素の排出ペースが落ちることはありません。
一人一人ができることを少しでも実行していくことが、気候危機への一番の対抗策になります。

いきなり飛行機に乗るなと言われても難しいよね

でもかなりの量の二酸化炭素を排出しているのも事実……

飛行機の代わりになる乗り物について考える時期にきているのかもしれないな
References: CNN