神経インターフェイスがもたらす医療への貢献と企業による情報漏洩のリスク

雑ネタ
© 2019 Imperial College London

医学はテクノロジーの発展により目覚ましい進歩を遂げています。

今では脳に損傷を受けた人でさえ、脳インプラント技術によって会話をしたり歩いたりできるようになりました。

これまでお手上げ状態だった怪我や病気に対し新しい医療が施されることは、患者や家族、そして社会全体の利益になります。

しかし医療分野に進出したテクノロジーは使い方によっては危険になることがあります。

 

イギリスの王立協会は、認知症や麻痺などの病気に対し有効な治療法である「神経インターフェイス(Neural Interface)」技術が、政府や企業に個人情報を悪用する力を与えるかもしれないと警告しました。

今後脳に電極を指す人が増えるようになると、私たちは病気に対する心配だけでなく脳からの情報漏洩にも気を配る必要が出てくるかもしれません。

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神経インターフェイスは医療に新しい道を開く一方、大企業や政府に悪用される可能性もある

 

Image by Gerd Altmann from Pixabay

 

王立協会によると認知症や麻痺、脳卒中やてんかんなどの治療に利用されるようになってきた「神経インターフェイス」によって、人々は“ある程度”のテレパシー能力を手にしています。

神経インターフェイスは脳を刺激しその活動を記録できる脳の内部に埋め込まれたデバイスで、脳に障害のある患者などの意思疎通の手段として既に医療現場で取り入れられているハイテク技術です。

神経インターフェイスは脳の障害だけでなく、精神的な健康状態を知るためや、肥満を解消するためといった目的のためにも利用できる医療分野のフロンティアとして今後のさらなる普及が期待されています。

 

インペリアルカレッジロンドンの次世代ニューラルインターフェイス研究所のディレクター、ティム・コンスタンディノウ博士は神経インターフェイスの未来について次のように語ります。

 

神経インターフェイスは2040年までに、人々が麻痺の後に歩くことを可能にし、抵抗性のうつ病の治療に対しての効果的な選択肢になる可能性があります。さらにはアルツハイマー病の治療さえ現実のものとするかもしれません。

 

これまで治療ができなかったりなかなか効果があがらなかった病気に対し、神経インターフェイスはバラ色の未来を提示します。

しかし脳とつながったデバイスには個人の情報が溢れており、またそれらは通常インターネットともつながっているため情報が外に漏れだす危険性があります。

王立協会は神経インターフェイスが“新しいリスク”を提起すると述べ、企業や政府などによってプライバシーや人権が損なわれることになると警告しています。

 

脳に埋め込まれたデバイスから情報が漏れ出す、などというのはこれまでSFの中だけの話でしたが、こうした未来の到来は私たちが考えているよりもそう遠くないかもしれません。

 

脳からの情報収集を目論むテクノロジー企業

 

世界のテクノロジー関連企業のリーダーは、神経インターフェイスに大きな関心を抱いています。

 

テスラやSpaceXでおなじみのイーロン・マスク氏はニューロテクノロジーの新会社「Neuralink」を設立していて、2020年には埋め込まれた電極を介し脳から直接コンピューターを操作できるようにする実験を行うと発表しています。

またFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏は「テレパシー・タイピング」に興味を示しています。

テレパシー・タイピングは特殊なヘッドセットを装着し、思考するだけで1分あたり100語をコンピューター上に書き込むことができるというものです。

Facebookはこの研究を支援しており、ザッカーバーグ氏によれば「これは究極のコミュニケーション技術になる」ということです。

Facebookに関しては近年の情報管理に対し厳しい目が向けられています。

 

神経インターフェイスの普及は、病気に苦しむ人たちに救いの手を差し伸べる素晴らしい技術をもたらすと同時に、情報管理の徹底を利用者に課すことになるでしょう。

 

 

 


 

……といっても神経インターフェイスはいまだ限定的な利用にとどまっており、考えただけでパソコンを操作したり、考えが知らないうちに盗まれるといったSF的な未来の到来はまだまだ先のことのように思えます。

このような考えに対し王立協会は今からでも行動する必要があると釘を刺します。

 

脳からコンピューターへのシームレスな通信は遥か遠い可能性のように思えますが、私たちの倫理および規制上のセーフガードが柔軟であることを確保するためには今から行動する必要があります。

 

インペリアルカレッジロンドンのクリス・トゥーマズ博士は、現在普及しているスマーフォンの技術は数十年前には想像もできなかったと指摘し、将来の神経インターフェイスの普及もこれと同じであり、この技術が多大な経済的利益をもたらす一方で少数の企業だけが関与する場合は情報が悪用される可能性もあると述べました。

 

技術の進歩は確実に人々の生活を豊かにします。

しかし便利で有益なことの裏には得体の知れない悪意が潜んでいることがあります。

 

 

 

References:CNN