ベーシックインカム――なんとも響きの良い言葉です。
これは国民に無条件で一定額のお金を支給する制度のことで、これまでいろいろな意味で議論の的になってきました。
ベーシックインカムの問題として誰にでも想像できるのは、仕事への意欲や生産性の低下、財源の確保などが挙げられます。
科学技術の発展により社会がオートメーション化していけば、いくつかの問題は解決できる可能性があります。
しかし人間がしていた仕事をロボットが請け負うようになれば、いずれ「仕事を失った労働者とロボットを保有する一部の富裕層」という構図が現実になり、社会は今より悪い環境になってしまうかもしれません。
ベーシックインカムは、労働と技術の進化から起こる問題に対する一つの解決策として提案されています。
最近、インドの小さな州シッキムの与党は、総選挙に向けたマニフェストとしてベーシックインカム導入を掲げました。
2022年までにベーシックインカムを導入
ヒマラヤ山脈の標高の高い場所に位置するシッキム州には、約61万人の住民が暮らしています。
与党であるシッキム民主戦線は、今年の総選挙の目玉として、2022年までにベーシックインカム制度を導入することを掲げました。
シッキムは新しい取り組みに対しての前例を持っています。
1998年にはインドで初めてビニール袋の使用を禁止した州になりました。(それは他の州とは異なり首尾よく実行されました)
また全ての市民に住宅を提供していて、最近では農薬や化学肥料の使用を廃止しインド初の有機栽培州にもなりました。
シッキム民主戦線のPrem Das Rai氏は、ベーシックインカム制度が発展途上国ではうまくいくスキームだと語ります。
ベーシックインカムは多くのエコノミストが検討したスキームであり、インドでもいくつかの州でテストされました。そしてそれがうまくいくことが示されています。
グジャラート州やマディヤ・プラデーシュ州、さらには複数の部族での試験的導入の結果が良かったことも今回のマニフェスト策定を後押ししています。
シッキムの識字率は98%と高く、失業率もインドの平均である30%よりもかなり低い8%ほどにとどまっています。
そしてベーシックインカム導入の決め手になったのが、政府が主導した水力発電プロジェクトの成功でした。
現在水力発電が生み出している年間の電力は2200メガワットですが、シッキムではそのうちの200~300メガワットほどしか必要としていません。(さらに今後は3000メガワットまで供給できる予定になっています)
残りの電力は余剰電力として電力会社が買い取ることになり、それは財源に充てられています。
Prem Das Rai氏は、この余剰分を州民のために利用するべきだと語っています。
そしてベーシックインカムがもたらす繁栄を人々と共有することを望んでいます。
ベーシックインカムは彼らに仕事の自由という選択肢を与えます。そしてこれは今日社会で目にする問題のいくつかを解決することができます。
Prem Das Rai氏は、「世界的な不平等が広がる時代において、このプロジェクトがそれを解決する一つのやり方であることを示したい」と付け加えました。
世界におけるベーシックインカムの実例
世界のいくつかの地域では、過去にベーシックインカムの実験が行われています。
2017年4月、カナダのオンタリオ州政府は4000人を対象にしたベーシックインカム実験を行っています。
それには1億1100万ドルの費用が必要になりました。
しかしプログラムは1年後に突然終了し、政府はこれを持続不可能なものだと説明しました。
フィンランドでは2年間にわたってベーシックインカム制度の実験が行われましたが、現在それを継続する計画はありません。
アメリカでは、カリフォルニア州ストックトンで27歳で市長に任命されたMichael Tubbs氏が、100人を対象に18か月間毎月500ドルを支給するという実験をして話題になりました。
(ストックトンは犯罪率が高く貧困が長年の問題になっています)
ベーシックインカムについては、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏やテスラ社のイーロン・マスク氏など、いわゆる大富豪たちが一定の評価を下している傾向があります。
しかし懐疑派は、労働意欲を低下させたり無駄な支出につながるたけだとして、両者の溝は大きく開いているのが現状です。
ストックトンの市長Tubbs氏は、貧困が最低限の生活をできなくさせ、それが予想外の事態に発展してしまうと語り、ベーシックインカムには果たすことのできる役割があると強調しています。
シッキム州はインドの州の中でもかなり特殊な環境にあります。
水力発電による収益や失業率の低さは、万が一ベーシックインカムがうまくいかなかった場合の保証につながっています。
一方各国で試験的に行われたベーシックインカムの場合、対象者の経済的な状況は様々でした。
ただお金を配るというだけでは、人はおそらく堕落してしまうでしょう。
ベーシックインカムには、お金だけではなく、生きがいや安心といった人間の根本的な欲求を満たす仕組みが不可欠です。
シッキム州でのベーシックインカム導入は、人々のあるべき生き方について考えさせる事例です。
わーい!仕事しないでずっと遊べるよー!
いつも遊んでるような気も……?
ベーシックインカム……これはぜひうちにも導入するべき
References:indianexpress,sciencealert