ESAとSpaceXの衛星がニアミス、来たる宇宙交通時代へ向けたルール整備につながるか

先日ESA(欧州宇宙機関)は低軌道衛星の一つを緊急噴射によって軌道修正しました。

これはSpaceX社が計画、実行している「スターリンク」衛星の一つと衝突する可能性が持ち上がったことから実行されたものです。

 

スターリンクは「衛星コンステレーション」と呼ばれる複数の人工衛星からなるシステムで、SpaceXのスターリンクは今後数年で12,000の人工衛星を軌道に投入し衛星インターネットサービスを提供します。

現在既に一部が軌道に投入されており、今後随時打ち上げられていく予定です。

 

ESAの発表では、2つの衛星が衝突する可能性は、通常の衝突回避操作を必要とするしきい値の10倍に達していました。(緊急性が高かった)

回避行動を取ったESAの「アイオロス地球観測衛星」は、SpaceXのスターリンクより9か月も早く宇宙空間にいました。

しかし今回の事態でSpaceXはESAの回避行動の要求には応えず、ESAは仕方なくアイオロスの軌道を修正せざるを得なくなりました。

 

現在宇宙には地上にあるような交通規制が存在していません。

今後数年間で軌道に乗る衛星がますます増えていくことが確実な中、専門家たちは衛星の衝突リスクが高まっていることを心配しています。

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来たる宇宙交通時代と交通規制の必要性

 

SpaceXの60基1セットのスターリンク衛星 Image Credit:STARLINK©2019

 

衝突回避行動はそれほど珍しいことではなく、ESAは昨年1年間で28回の回避行動をとっています。

回避行動をしなければならない主な理由は、運用を終え制御不能となった衛星やスペースデブリによるものがほとんどです。

しかし今回ESAとSpaceXとの間で起きた事態は、これからの宇宙交通時代における交通規制の必要性を提示しました。

 

ESAの宇宙安全責任者であるホルガ―・クラッグ氏は、現在の宇宙には、衝突の危険がある場合にオペレーターが衛星を移動しなければならないルールはないと語ります。

 

宇宙にルールはありません。誰もが使用できるスペースがあります。基本的に全ての軌道上で他のオブジェクトに遭遇する可能性があり、そのためトラフィックを管理するためにはテクノロジーが必要だと考えます。

 

クラッグ氏によると、アイオロスとスターリンクとの衝突の可能性が出てきたとき、ESAがSpaceXとの連絡に使用したのはEメールでした。

この伝達方法は緊急を要する事態にはあまりに頼りないものです。

クラッグ氏は「今後宇宙の交通量が増えることを考えればEメールでのやり取りはもはや実行不可能な古風なプロセスだ」と断言しています。

 

スターリンクは最終的に12,000もの“衛星の艦隊”を軌道上に展開します。

しかし宇宙に進出しようとしている企業はSpaceXだけではなく、OneWeb、Amazon、Kepler Communicationsといった企業も多数の衛星を軌道に浮かべ衛星インターネットサービスを提供しようとしています。

確実にやってくる“宇宙交通時代”には、Eメールのような手動で行われる衝突回避プロセスでは明らかに不十分です。

 

ESAは「軌道上の衛星の数が増えると今日行われている手動の衝突回避プロセスは不可能になる」と述べ、将来的には人工知能が問題に対処する必要が出てくるだろうとツイートしています。

 

宇宙での交通事故を無くすのは自動化されたシステムと善意

 

スターリンクは他の衛星と比べて低軌道を周回するが衝突の危険がないわけではない Image Credit:STARLINK©2019

 

現在地球を周回している衛星の数は5,000を超えていて、そのうちの2,000がアクティブな状態です。

この先その数が指数関数的に増加することは確実です。

クラッグ氏は今後の宇宙交通管理には多くの自動化を備えたシステムが必要だとし、オペレーターたちが宇宙の安全のために話し合わなければならないだろうと語ります。

 

私が望んでいるのは宇宙交通を行うための組織化された方法です。宇宙に10,000もの衛星があるときに何をすべきかをメールでやり取りするのはあり得ないことです。これは私が想像する現代の宇宙飛行ではありません。

 

ESAは現在、衝突の可能性と潜在的な結果を迅速に評価するためのシステムの開発に取り組み始めています。

 


 

SpaceXはESAの回避要請に応じなかったことについて、衝突の危険性を示す確率がしきい値の範囲内だったことを主な理由として挙げています。

つまりESAのアイオロスが回避行動をしなかったとしても2つの衛星が衝突することはなかったという主張です。

実際のところ衝突してからでは遅いので、これを確認する術はありません。

 

ESAは将来の宇宙交通には“善意”が必要だと述べています。

現状宇宙での衛星の運用について国際的な規制や規則がない以上、それらが整備されるまでは、衛星管理者それぞれが思いやりを持たなければなりません。

事故をなくすのは、地上でも宇宙でも変わりなく“譲り合い”の精神です。

 

 

 

References:Forbes