8%が人工衛星の光に 衛星コンステレーションが変える未来の夜空

宇宙
(Credit: Starlink)

人類は古来より、星の動きから時間について学び、太陽や宇宙について思いを巡らせ、あるいは単にノスタルジックな気分になったりしてきました。

現代は高性能の望遠鏡が比較的安価に手に入り、スマートフォンを使えば、自分の位置から見える星座を正確に知ることもできます。

夜空に光る星々は、これからも人類の興味の対象であり続けます。

しかし近い将来、夜空には、星以外の物体も輝くようになります。

私たちがきれいと感じたその星は、実際には人工衛星である可能性があります。

 

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活気づく衛星コンステレーション事業

 

現在SpaceX社をはじめとした各国の企業が、多数の小型衛星を組み合わせたシステムである「衛星コンステレーション」事業に乗り出しています。

これは軌道上に衛星の一群を張り巡らせ、地球のあらゆる場所に通信サービスを提供するためのものです。

SpaceXは「スターリンク」と呼ばれるシステムを運用しており、既に2000基以上の衛星が地球を周回し、最終的にその数は42,000基となる見込みです。

他にもアマゾンが計画している「プロジェクト・カイパー」やイギリスの「ワンウェブ」、中国の「Starnet/GW」など、今後も多くの衛星が打ち上げられる予定となっています。

衛星コンステレーションは、GPSや衛星電話、そして僻地へのインターネット提供など、人類の近代的な生活に欠かせない技術です。

一方で、かつてない数の衛星が、軌道上を飛び回る要因にもなっています。

 

衛星はその位置や傾きにより、太陽光を反射します。

これは地上から天体を観測する者にとって、ノイズとなり得る光です。

一部の天文学者は、将来軌道上にさらに多くの人工衛星が飛び交うようになると、これまでのような観測が出来なくなるのではないかと懸念しています。

 

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夜空の星の8%が人工衛星の光

 

カナダのレジャイナ大学やブリティッシュコロンビア大学などの天文学者チームは、米国連邦通信委員会(FCC)に提出された各企業の衛星運用リストを元に、将来65,000基の衛星が地球上を周回した場合の光害について分析を行いました。

企業が実際にどのような間隔で衛星を配置し、また機体にどんな素材を使用するのかは事前に知ることができません。

そのため分析では、衛星を軌道上に等間隔、あるいは準ランダムに配置し、また太陽光の影響については、実際のスターリンク衛星の観測データから光の反射モデルを作りました。

そしてこのモデルを使って、地球上の様々な緯度から夜空を観測するシミュレーションを行いました。

また地上の観測者が空を見る角度や時間、さらには衛星の高度についても様々なパターンを検証しました。

 

FCCに提出されたデータを元に作られた65,000基の衛星の分布図。青い点は全て衛星コンステレーションの人工衛星 (Samantha M.Lawler/The Astronomical Journal)

 

分析の結果、北緯50度と南緯50度付近で、最も光害の影響が大きくなることがわかりました。

これらの地点では、ほぼ全ての季節と時間帯で衛星の姿が確認でき、その割合は光源の最大8%に達しました。

たとえば冬至に、北緯50度にあるカナダの天文台から日没の空を見上げた場合、衛星は肉眼で195個、望遠鏡を使った観測では2176個確認されました。

これは夜空の星14個に1個が、実際には衛星であることを示すものです。

 

夏至時における北緯20度から50度地点での空の見え方。左から日の出日の入り時の高度1200km、同550km、真夜中時の高度1200km、同550km。Ntotは肉眼では見えない人工衛星の数、Nvisは肉眼で見える人工衛星の数。右の目盛りは明るさの等級 (Samantha M.Lawler/The Astronomical Journal)

 

衛星の光の影響は北緯および南緯50度を境に少しずつ減少しますが、それでも夜空に衛星が見えなくなる場所は存在せず、北極からでさえ数十個が確認できました。

北緯50度の地点には、世界的な天文台が多く設置されており、衛星による光害は、正確な観測を妨げる可能性につながります。

 

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衛星の光害による天体観測への影響

 

衛星の光が観測にもたらす影響については以前から知られており、天文学者は撮影した天体写真から、ノイズとなる光を除去するアルゴリズムを開発し対策をとっています。

しかし衛星コンステレーションに対する投資は今後ますます増加し、数年後には10万を超える衛星が地球を周回すると予想されています。

現在この分野の先頭を走っているスターリンクの衛星は、その見た目の明るさが4~9で、中央値は5.7となっています。

見かけの明るさは、数値が低いほど明るい星であることを示します。

肉眼で見える限界は6.5ですが、研究施設で使われる赤外線望遠鏡などは、それ以上の暗さを探知できます。

多くの場合、見かけの明るさが7であっても、それが星ではなく衛星であるならば、深刻なデータ損失を招きます。

 

衛星の光害については各国の規制が進んでおらず、国境を越えた問題であるにもかかわらず、具体的な議論にまで進んでいないのが実情です。

SpaceXはスターリンクの衛星による光害について、2020年8月7日の打ち上げ以降、機体に太陽光を遮る展開可能なバイザーを装着すると発表し、また将来的には、衛星の見た目の明るさを7以上に暗くするとしていますが、進捗状況の詳細は明かされていません。

The Astronomical Journalに掲載された研究の著者であるレジャイナ大学のサマンサ・ローラー助教授は、「私たちは既に非常に多くの衛星を見ていますが、それらはその10倍になろうとしています」と述べ、今後は、反射率や衛星放送の規制などについて国際的な協力が不可欠になるだろうと指摘しています。

 


 

 

ふうか
ふうか

シミュレーションによると、これからの夜空は産業革命前より10%以上明るくなるそうだ

しぐれ
しぐれ

インターネットがどこでも使えるようになるのは便利だけどね

せつな
せつな

10万基も衛星が飛んでたらいつか衝突しそう……

 

References: The Astronomical Journal,CNN