2020年は惑星の位置関係により、火星に向かう絶好の年です。
今年は3ヵ国が探査機を送る計画で、7月20日にはUAEの「HOPE」、23日には中国の「天問1号」、30日にはアメリカの「パーサヴィアランス」がそれぞれ赤い惑星に旅立ちます。
NASAのパーサヴィアランスは、火星で生命の痕跡を探すための様々な機器を搭載していますが、そのなかに、最先端の科学からはほど遠い太古の物質が含まれていることはあまり知られていません。
1999年にオマーンで発見され、これまでロンドン自然史博物館に展示されていたその石は、パーサヴィアランスに乗って数十万年ぶりに故郷の星に帰ります。
地球に落ちてきた火星の石が果たす役割
パーサヴィアランスの旅に同行し火星での調査を手助けするのは、1999年にオマーンの砂漠で発見された「SaU 008 (Sayh al Uhaymir 008)」として知られる隕石の破片です。
SaU 008は化学分析の結果から、元々は火星に存在していた岩石であり、彗星の衝突によって宇宙に吹き飛ばされた後に地球に落ちてきた隕石であることがわかっています。
輝石、カンラン石、長石などの既に研究が進んでいる鉱物が含まれているSaU 008は、生命の痕跡を示す岩の選定に重要な役割を果たします。
火星に帰還するSaU 008 (Credit: NASA/JPL-Caltech)
パーサヴィアランスのロボットアームに取り付けられた「シャーロック (SHERLOC)」と呼ばれる機器は、分光器、レーザー、カメラを使って岩を分析し、有機物などの生命の兆候を探します。
しかし火星は地球とは異なる環境のため、長い調査期間中には、予期せぬ機器のトラブルが発生します。
科学的に価値があるとみなされたサンプルは、後に回収され地球に送り返されますが、シャーロックの機能が落ちていた場合、より重要なものが見逃される可能性があります。
地球の科学者はそうした状況の際、組成が十分に理解されている火星由来のSaU 008を判断基準に使い、機器を調整(キャリブレーション)することができます。
シャーロックの能力を高い水準に保ち続けるSaU 008は、パーサヴィアランスのミッションの成功に欠かせない存在です。
NASAのジェット推進研究所のシャーロックの主任研究員ルーサー・ビーグル博士は、SaU 008について、「到着後最初の60~90日でキャリブレーションを行いますが、装置は非常に安定していると考えているため、おそらく半年は出番がないでしょう。しかし、火星の表面から説明できない興味深いものが出てきたら、すぐに機器の動作を確認します」と述べています。
ビーグル博士は、「生命の痕跡を示す岩の測定は難しく、100%確実なことはないため、より良いサンプルを得ることが重要だ」と指摘しています。
SaU 008を展示していたロンドン自然史博物館のキャロライン・スミス教授は、「この小さな岩は多くの物語を持っています。約4億5000万年前に形成され、小惑星あるいは彗星によって60~70万年前に宇宙に飛ばされ、おそらく1000年前に隕石として地球に降ってきました」と述べています。
パーサヴィアランスはかつて水があったと考えられている火星の「ジェゼロ・クレーター」に降り立ち、土壌や岩の分析を行います。
パーサヴィアランスを乗せたアトラスロケットは、7月30日の20時50分(日本時間)、フロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられる予定です。
火星の石が既に地球に存在していたのは幸運と言えるな
60万年ぶりに火星に帰るなんてドラマチックだね~
Reference: BBC