現在までに多くの宇宙飛行士が地球を離れて宇宙空間に到達していますが、もっと身近にある未知の領域にほとんどの人が到達していないことはあまり知られていません。
その領域とは海面から6000m以上深い場所にある超深海帯「ヘイダルゾーン」です。
世界の海の45%がこのヘイダルゾーンに位置しています。
ヘイダルゾーンの中でも最も深い場所として知られるマリアナ海溝にあるチャレンジャー深淵にはこれまでに3人しか到達していません。
1960年のトリエステ号で海底に到着したジャック・ピカールとドン・ウォルシュの2人と、2012年にディープシーチャレンジャー号で海底まで到達した映画監督のジェームズ・キャメロンの合わせて3人です。
莫大な資金と緻密な設計をもってしてもなお深海の圧力は生命の侵入を拒絶しようとします。
そんな地球に残された未知の領域である深海に、NASAの研究チームとウッズホール海洋研究所の科学者たちは持ちうる技術と経験で挑もうとしています。
深海探査機オルフェウス
オルフェウス Image:OceanX,YouTube
慈善団体ブルームバーグ・フィランソロピーの資金提供を受けた深海探査プロジェクトであるOceanXは、オルフェウスと名付けられた無人探査機を用い深海生物の姿を捉えることを目指しています。
オルフェウスの設計にはNASAのエンジニアが協力しています。
またウッズホール研究所の科学者たちも、2014年まで稼働していた無人探査機ネーレウスで培われた技術と経験をプロジェクトに生かすために協力をしています。
ネーレウスは1995年から製作が行われ2009年に就航した際には無人機として世界で初めてチャレンジャー深淵の底に到達しました。
しかし2014年にニュージーランド北西のケルマデック海溝の深海調査中に水圧によって破壊されてしまいました。
OceanXプロジェクトにNASAとウッズホール研究所が協力するのには理由があります。
それは他の惑星にある海の中を探査するために必要なデータを手に入れることです。
探査ミッションを率いるウッズホール研究所の生物学者Tim Shank氏はオルフェウスのことをこう表現しました。
オルフェウスはエウロパに行くことになるかもしれない探査機の素晴らしい、素晴らしい、素晴らしいおばあちゃんなんです。
エウロパは木星の衛星の一つでその地下には氷で覆われた海があると考えられています。
エウロパは地球外生命が存在する可能性がある星の一つとして数えられています。
オルフェウスは600ポンドの重さがあり、深い海の底で自律走行できるように設計されています。
昨年9月のテストでは水面下176mを自律走行することに成功しました。
深海はその水圧によりちょっとした衝撃でさえ機械にとっては致命傷になりえます。
NASAのロボットエンジニアであるJohn Leichty氏はオルフェウスの自律性が重要であると語ります。
より複雑な任務を遂行するため、その自律性を改善しなければなりません。水中をナビゲートし、物にぶつからないようにすることを確実にする必要があります。
オルフェウスには4つのGo-Proカメラとフラッシュが搭載されていて機体が自動で操作できるようになっています。
スマートフォンで写真を撮るのと同じようなことを深海で行うことができます。
オルフェウスに自律性を加えることは深海への通信に長い時間がかかることが影響しています。
例えば深海での調査を終えて浮上しようとしたときに通信が行えない場合は、自動的におもりをつなぐ部分がさび付くようになっています。
そしてそれは1日以内に切り離され機体は海面へと浮上することができるようになります。
オルフェウスがもたらすものと宇宙探査の未来
オルフェウスの海底探査のイメージ Image:OceanX,YouTube
NASAは地球の海底の圧力はエウロパのものに似ていると考えています。
将来エウロパに向けて探査機が送られたとしても氷の底の海底に有人で向かうことはあり得ないことです。
地球からの遠隔操作でエウロパの海を探索するためにはヘイダルゾーンでのシミュレーションがかかせません。
オルフェウスは別の星の海を調査するための重要な第一歩を担っているのです。
オルフェウスが探検する場所の多くはプレート同士がぶつかりあう「沈み込み帯」でその周辺には海底火山が存在しています。
この場所では活発な火山活動により溶岩が流れ出しそこに独特な生態系が広がっています。
チームはオルフェウスがこうした場所で見たことのない微生物を発見すると確信しています。
それは新しい抗生物質や薬の開発、そして生活に必要な条件についての新しい考え方につながる可能性があります。
オルフェウスは海底にとどまることができるように設計されていて、そこで生きている生物を収集したり、周囲の環境の成分について調査したりすることができます。
ウッズホール研究所のShank氏はオルフェウスの技術が宇宙開発に及ぼす可能性について次のように語っています。
これらの分野は、地球上、または他の惑星に存在する生命を見つける方法について新しい考え方をもたらすものになるでしょう。
計画は最終的にオルフェウスのような無人探査機をいくつも作りそれを”艦隊”として世界の海底に派遣することも目指しています。
Shank氏はその艦隊がまるでバッタのように、海底に着地し、火山の硫化水素を嗅ぎ、写真を撮り、再び別の場所に向かうようになることを期待していると語りました。
NASAがなぜ上(宇宙)ではなく下(海底)に目を向けるのかの謎が解けました。
エウロパに探査機を送る計画はまだ先のことだと思いますが、地球にもまだまだ未知の領域や生物が存在しているので、これからのオルフェウスの活躍に期待したいですね。
References:BusinessInsider,YouTube