太陽系で最も遠くにある惑星海王星は1989年にボイジャー2号が接近するまでは多くの謎に包まれていました。
ボイジャー2号は海王星を撮影しその大気や組成について多くのデータを地球に送り返しました。
そして海王星の衛星についても多くの真実をもたらしました。
現在海王星を周回している衛星は14あるとされています。
そのなかで最も最近になって発見された14番目の衛星は、非常に小さくまたあまりにも遠い場所にあったためS/2004 N1という番号でしか呼ばれていませんでした。
S/2004 N1の軌道を完全に理解するためには追加の観測が必要でした。
しかしその後、海王星の環の観測のためにハッブル宇宙望遠鏡のデータを解析していたSETI(地球外生命の発見を目的としている非営利団体)のチームは、海王星の別の衛星であるプロテウスの側に別の衛星があるのを発見します。
その小さくて暗い星はしばらくの間忘れ去られていたS/2004 N1でした。
新しい名前はギリシャ神話の海馬、Hippocamp(ヒッポキャンプ)
ボイジャー2号が撮影した海王星 Image Credit:NASA
S/2004 N1には晴れて名前が付けられることになりました。
海王星がローマ神話に登場する海の神ネプチューンからきていることから、S/2004 N1にはギリシア神話に登場する半馬半魚の海の神Hippocamp(ヒッポキャンプ)の名がつけられました。
天文学者はHippocampのことを”そこにあるべきでない月”と呼んでいます。
Hippocampは幅が34kmほどしかない小さな衛星です。
そして今回発見されたときにHippocampの側にあった衛星プロテウスは、幅約418kmもの大きさで質量は1000倍以上あると推定されています。
本来ならばHippocampはプロテウスの重力によって飲み込まれていた可能性があります。
SETIの惑星天文学者であるMark Showalter氏は、Hippocampの興味深い点はそれがそこにあってはならないということだ、と語ります。
プロテウスの軌道についてこれまで私たちが知っていたことに基づくならば、Hippocampが現れた場所に新しい衛星がある理由は絶対にありませんでした。
なぜ大きな衛星(プロテウスは海王星の14の衛星の中で2番目に大きい)の近くにHippocampがいるのでしょうか。
詳しいことは今後の観測を待つ必要がありますが、天文学者たちはHippocampがプロテウスに衝突した彗星からできた破片ではないかと考えています。
ボイジャー2号が撮影した写真からプロテウスには数多くのクレーターが存在していることが既にわかっています。
その中でもPharos(ファロス)と呼ばれる直径230km以上の大きいクレーターの存在がこの説を後押ししています。
海王星の衛星を作り出したカイパーベルトからの彗星
Neptune(海王星)の外側の緑の点がカイパーベルト:Outersolarsystem objectpositions labels comp:Wikimedia
海王星は太陽系の一番端に位置している惑星ですが、その向こう側には太陽系外縁天体群であるエッジワース・カイパーベルトが広がっています。
つい最近ではNASAの探査機ニューホライズンズがカイパーベルト天体であるウルティマ・トゥーレに最接近したことが話題になりました。
海王星は何十億年も前にこの無数の天体群から氷と岩でできた彗星を引き寄せたと考えられています。
海王星の周りを周っていた原初の衛星はやってきた彗星に破壊され、そして再び結合することで別の衛星が誕生したのです。
プロテウスのクレーターであるPharosはその大きさから換算するとプロテウスの質量の2%分だとされています。
Hippocampは海王星が彗星を引き寄せた際にプロテウスに衝突してできたこの2%のうちの一部である可能性があります。
NASAのエイムズ研究センターのJack Lissauer氏は、この対になったプロテウスとHippocampの存在は、衛星が彗星によってばらばらにされることがあるという劇的な実例だと述べています。
ボイジャー2号は海王星に――薄いながらも――土星のような環があることを確認しています。
プロテウスから飛び散ったクレーターの一部分はこの環を形成している可能性もあります。
SETIのShowalter氏は太陽系の遠くにはもっと多くの隠された驚きがあると期待しています。
そして土星探査機カッシーニが6つの衛星を発見したことを挙げ、NASAやESA(欧州宇宙機関)に天王星や海王星に新たな探査機を送るように求めました。
技術の発達により遠くの宇宙で何が起きたのかがわかるようになりました。
とはいえ宇宙の時間の感覚は人間のそれよりもはるかに長いためにまだまだ未知の部分が多くあります。
今後どんな新しい宇宙の真実が明らかになっていくのか、宇宙を調査している専門家(と無人探査機)たちの仕事に感謝しつつ見守っていきたいですね。
References:NASA,ScienceAlert