新型コロナウイルスの影響により世界の主要な都市がロックダウンして以降、ビデオゲーム業界は活況を呈しています。
先日発売された「Doom Eternal」は、シリーズ中最高の週間販売数を記録し、任天堂の「あつまれ どうぶつの森」は世界的な文化現象になっています。
またスポーツイベントが自粛されたことで、eスポーツへの関心が高まってきており、eスポーツを扱った番組や、Twitchなどのストリーミングサイトの視聴者数が軒並み増加しています。
現在ゲーム業界は、新型ウイルスの影響を受けていない数少ない分野として認識されています。
しかし開発者や関係者によれば、この“コロナ特需”はそう長くは続かないだけでなく、ゲーム業界に大きな爪痕を残す可能性があります。
ビッグタイトルの相次ぐ延期
Amazon Game Studios「New World」
2016年の12月に発表され、2020年の5月29日に発売予定だったNaughty Dogの期待の新作「The Last of Us Part II」は、新型コロナウイルスによる影響で発売を無期限に延期しました。
Naughty Dogの開発者は延期について、印刷や出荷に関わるものであり、ウイルスによって工場が閉鎖し流通が滞っていることが主な理由であると説明しました。
Amazon Game StudiosのサバイバルMMORPG「New World」は当初5月の発売を予定していましたが、4月に入り、発売日を8月25日に延期すると発表しました。
アマゾンは発売延期の理由を、「当面の間はリモートワークで作業を行うため」と説明しています。
スクウェア・エニックスは「ファイナルファンタジーXIV」のパッチの延期を発表し、またマイクロソフト傘下のinXile Entertainmentも、新作RPG「Wasteland 3」の発売日を、5月19日から8月28日に変更すると発表しています。
一方で、新型ウイルスによる影響をそれほど受けていない企業もあります。
世界中に多くのスタジオと従業員を抱えるUbiSoftは、リモートワークによってプロジェクト間の業務の移動を柔軟に行っています。
CEOのYves Guillemot氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「品質保証に関する業務の一部をインドから中国にシフトした」と明かし、あるスタジオが別のスタジオの問題を解決することで、現在の状況に対応していると話しています。
上に挙げたメーカーはいずれもが体力のある企業であり、発売日の延期に伴う作業の増加および経済的損失は、決してカバーできないほどではありません。
しかしインディーズメーカーにとって今回のパンデミックは、文字通り致命的となっています。
パンデミックがインディーズメーカーに与える影響
Ⓒ The Molasses Flood
フィンランドに拠点を置くスタジオRival GamesのCEOであるJukka Laakso氏は、4月10日にブログを更新し、スタジオを閉鎖することを明らかにしました。
Rival Gamesは、閉鎖の理由は単純にお金であり、スタジオは前に進むことが不可能になったと述べています。
ボストンを拠点とする独立系スタジオThe Molasses Floodの社長であるForrest Dowling氏は、新作「Drake Hollow」を予定通り6月にリリースすることで調整を進めていると明かす一方で、新型コロナウイルスによる影響は、「クランチ」に似た形で開発者にのしかかってきている述べました。(クランチはゲーム開発終盤における苛烈な長時間労働のこと)
Dowling氏はスタッフの健康と生産性の両立は容易ではなく、パンデミックの最中に働くことは、「人々を燃え尽きさせる」と述べ、この状況は業界の悪習であるクランチのようなものだと指摘しています。
毎年3月に開催されているゲーム開発者が集う会議「GDC-Game Developers Conference」の延期や、6月のビッグイベントである「E3」の中止も、インディーズメーカーにとって大きな痛手となりました。
商談も兼ねるこれらのイベントは、小さなスタジオが自分たちのゲームをアピールできる貴重な機会です。
GDCは現在8月の開催に向けて準備をしており、またソニーやマイクロソフトは中止となったE3の代わりとなるデジタルイベントを計画しています。
しかしインディーズメーカーの多くは、延期された期間を凌げるほど体力に余裕がありません。
スタジオの閉鎖を決めたRival Gamesは、「パンデミックの影響で、持っていた全ての手がかりを失い、出口のない暗闇に迷い込んでしまった」と悲痛な叫びをあげています。
新ハードの発売の遅れはゲーム市場に大きな影響を与える
新型ウイルスは、各プラットフォームの認証作業の遅れも引き起こしています。
新作ゲームは、ソニー、マイクロソフト、任天堂の認証プロセスを通過しなければなりませんが、現在それらの作業は全てリモートワークで行われているため、通常よりも多くの時間がかかっています。
今年のホリデーシーズンに発売予定のソニーの「PlayStation 5」およびマイクロソフトの「Xbox Series X」は、いずれも発売時期に変更がないことがアナウンスされています。
しかしパンデミックが収束しない場合、状況が変わる可能性があります。
アメリカの市場調査会社NPDグループのMat Piscatella氏は、「もし新しいコンソールの発売日が遅れれば、市場に影響を与えるのは間違いない」と話しています。
今のところソニーもマイクロソフトも、新ハードの正確な発売日を明らかにしていません。
UbiSoftのGuillemot氏は、「現在リモートワークで開発を続けており、自社タイトルのスケジュールに大きな影響はない」とする一方で、「調整が必要な場合はそれに応じる」と話し、ハードの発売延期を含むあらゆる事態に柔軟に対応していく考えを示しています。
パンデミックが予想以上に続いた場合、毎年決まった時期に発売されているタイトル――Call of DutyやEAのスポーツゲームなど――も延期を余儀なくされる可能性があります。
ゲーム開発は長期間に及ぶものであるため、新型ウイルスによる影響は、今年の後半から来年にかけてより顕著に現れてくるでしょう。
キャラクターに声をあてる声優さんの確保も難しくなっているらしい……
これから発売されるゲームのほとんどは何らかの影響を受けそうだね
References: The New York Times