Dragon Ageの開発に立ちはだかる苦難 BioWareとEAの確執

ゲーム
(BioWare)

今年「ANTHEM」を発表し、スタジオが培ってきたRPGの遺伝子を新しい形で見せたBioWareは、人気シリーズである「Dragon Age」については沈黙を守っています。

昨年12月に前触れもなく発表されたティザー映像は、ファンを興奮させましたが、発売日はもちろんのこと、ゲーム内容についてはほとんど不明でした。

「ANTHEM」か出たのであれば、次は当然「Dragon Age」になるはずだと、多くのファンは期待しています。

しかしKotakuのレポートによると、新生Dragon Ageの登場には、しばらく時間がかかりそうです。

 

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Dragon Age: Inquisitionは猛烈な追い込みでようやく完成した

 

(Electronic Arts/BioWare)

 

KotakuのJason Schreier氏がBioWareのスタッフと話をし、2014年の前作「Dragon Age: Inquisition (ドラゴンエイジ:インクイシジョン)」の発売からこれまでの動きについて、その詳細を明らかにしています。

 

まず「Dragon Age: Inquisition」が発売されるまでには、数々の苦難がありました。

プラットフォームが5つ(PC、PS3、PS4、XboxOne、Xbox360)であることや、初めて使用するFrostbiteエンジンの技術的な問題、そしてマルチプレイヤーモードの追加などは、スタッフを大いに苦しめました。

苦労の甲斐あって、ゲームは数々の賞を受賞しました。

しかしこれは、スタッフが皮肉を込めて言うところの“BioWareマジック”、つまりは長時間労働と過大なプレッシャーによる賜物でした。

実際、ゲームのデザインとメインストーリーの大半は、開発の最終年にようやく完成しています。

燃え尽きたスタッフに対し、クリエイティブディレクターのMike Laidlaw氏と、エグゼクティブプロデューサーのMark Darrah氏は、次期プロジェクトではこうしたことがないよう調整することを約束しました。

その後「Dragon Age: Inquisition」のチームは解散し、スタッフの多くは、別のタイトルである「Mass Effect: Andromeda」に移りました。

 

Dragon Ageの新プロジェクトは、このときMass Effectに加わらなかったスタッフが中心となり、新たに「Joplin (ジョプリン)」という名でスタートしました。

しかしJoplinにも、困難が待ち構えていました。

 

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新しいDragon Ageプロジェクト「Joplin」とEAの思惑

 

(Electronic Arts/BioWare)

 

Joplinの開発は当初、比較的順調でした。

これはスタッフがInquisitionを経験しており、ミスをどのように回避するかを十分に心得ていたからです。

スタッフの1人はJoplinを、自身の経験において過去最高の実務経験であり、ゲーム自体も非常にクールに感じられるものだったと振り返っています。

このスタッフが過去形で話すのは、Joplinのプロジェクトが最終的にはキャンセルされたためです。

なぜJoplinの開発がストップしたのか――その理由は、当時暗礁に乗り上げていた「Mass Effect: Andromeda」にスタッフを集中させるためでした。

BioWareは開発が滞っていたMass Effectを完成させるため、一時的にJoplinを凍結し、スタッフ総出で対応にあたりました。

結果、Mass Effectは2017年3月に発売されました。

 

「Mass Effect: Andromeda」がようやく世に出たことで、ストップしていたJoplinの開発が再び始まろうとしていました。

しかし今度は、親会社であるEAから難題が突き付けられます。

それはEAが掲げていた「サービスとしてのゲーム」を、BioWareの作品でも取り入れろ、というものでした。

「サービスとしてのゲーム」とは、売り切りのタイトルではなく、オンラインをベースに恒常的な売り上げが期待できるような作品のことです。

EAは、「FIFA」や「バトルフィールド」といったオンラインゲームを、収益の柱として重要視しており、それを全ての自社製品で行いたいという希望を持っていました。

一方、BioWareの作品は伝統的にシングルプレイであり、EAが好むオンラインゲームとは真逆の性質をもっています。

このときBioWareは、新作「ANTHEM」の開発に難渋しており、EAとしては、これ以上のコストをかけたくない思惑がありました。

この状況が引き金となり、EAは2017年10月にJoplinの開発中止を決定し、スタッフの多くを退職させました。

 

Dragon Ageは新作の芽は、これで完全に断たれてしまいました。

 

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ライブサービスのためのDragon Age「Morrison」が始動

 

EAはDragon Ageを見捨てはしませんでした。

しかし新作には、EAが要求するライブサービスの部分を入れる必要があります。

BioWareは、シングルプレイヤーRPGとしての従来の魅力を維持しながら、ライブサービスとして収益をあげられる作品を、一から作ることになります。

新しいプロジェクトの名は現在、「Morrison (モリソン)」と呼ばれています。

 

Dragon Ageのライブサービス化は、ファンを大いに怒らせました。

これに対しスタジオのゼネラルマネージャーは、新しいDragon Ageがこれまでの作品と同様、ストーリーとキャラクターに焦点をあてており、ライブサービスの部分については、メインストーリーとは関わらないように設計していると説明しました。

 

現時点で、新生Dragon Ageがどのようなゲームになるかを予想するのは困難です。

Morrisonの開発スタッフの1人は、ゲームの方向性が「今後2年間で5回は変わるだろう」と皮肉めいて話しました。

BioWareは、「Dragon Age: Inquisition」で数々のタイトルを獲得し、シングルRPGを制作するスタジオとして栄誉を得ました。

しかし裏では、長時間労働やEAとの確執といった問題を抱えており、スタッフにとっては決して働きやすい環境であるとは言えません。

Kotakuによると、EAとBioWareの幹部は、「ANTHEM」で起こった長時間労働や、スタッフのうつ病、精神的障害などについて、“それほど気にはしていない”とする発言をしています。

BioWareとDragon Ageを巡る一連の動きは、開発費の高騰やプレイヤーの好むジャンルの変遷、親会社の思惑など、現代の開発スタジオが抱える問題を浮き彫りにしています。

 

*Morrisonをライブサービスにするという案は、「ANTHEM」の不調により撤廃され、現在シングルプレイヤータイトルとして、「Dragon Age: Dreadwolf」の開発が進められています。

 

 

Source: Kotaku