自然や動物に触れ合うことでそれらを守る心を育むエコツーリズムは、観光の新たなあり方として広く注目を集めています。
田舎に対するあこがれや郷愁は、観光客の財布のひもを緩め、地元に大きな収入をもたらします。
SNSが浸透した現代において、田舎での非日常はフォロワーにアピールする絶好の機会となります。
しかし度を越した行動は、時にトラブルを招き、地元民との間に軋轢を生むきっかけとなる可能性があります。
観光客によって奪われた小さな命
英国ウェールズのスウォンジー南西部にあるガワー半島は、自然が美しいイギリスでも有数の景勝地で、日々多くの観光客が訪れます。
海に面した崖沿いのエリアには野生の馬が生息し、自然との素晴らしいコラボレーションをとらえるべく、アマチュア写真家がレンズをのぞき込んでいます。
この自然豊かなガワー半島で、今年の4月、痛ましい事故が起こりました。
地元の農家ニッキー・ベイノンさんが放牧している雌のポニーの出産中に観光客が押し寄せ、生まれたばかりの子馬が崖から転落してしまったのです。
観光客がこの場所にやってきたのはこれが初めてではなく、以前も一部の人たちがポニーとの写真を撮ろうと、行き過ぎた行動を繰り返していました。
今回の事故は、母親ポニーが観光客から距離をとろうと崖の端まで移動したことがきっかけで起こりました。
ベイノンさんは、「写真を撮ろうとした人が押し寄せ、母馬はどんどん崖に追いやられた」と当時の状況を振り返り、事故の以降は、ポニーたちを家に連れ帰らなければならなくなったと話しています。
イギリスにはカントリーコードと呼ばれる、田舎での模範的な行動を定めたルールが存在します。
カントリーコードには「ゴミは持ち帰る」、「田舎を楽しみ、その生活と仕事を尊重する」、「家畜、作物、機械は放っておく」などがありますが、基本的には人や自然に敬意を払い、非常識な行動を戒める目的があります。
2004年からは、「動植物を保護する」、「他人に配慮する」などの新たな項目を加えたカントリーサイド・コードも発表されています。
しかしこうした最低限のマナーも、自撮り文化の浸透やエコツーリズムの発展により、形骸化しつつあります。
田舎を訪れたら人と動物を尊重する
豊かな自然や動物が見られる田舎は観光資源としての役割が期待されており、実際にこの側面を押し出すことで、大きな成功を収めている自治体もあります。
一方で、全ての観光客がマナーを守るわけではなく、様々なトラブル(特に地元の人々と生態系に対するもの)が発生しているのも事実です。
ベイノンさんによると、昨年、ポニーがパニック状態に陥ったことがありました。
この時は、空からの写真を撮るために上空をドローンが旋回していました。
操縦者は、ドローンを飛ばすことが動物にどのようなストレスを与えるかについてまったく理解していませんでした。
また別の時期には、飼っている羊が、誰かの連れてきた犬に食い殺されていたこともありました。
こうした事故は、地元の人の観光客に対する印象を悪くさせ、田舎と都会の対立を引き起こす要因になります。
どんな場所であろうと、そこでは人間と動物がそれぞれのルールで暮らしており、外部からやってきた人はそれを最大限尊重する必要があります。
イギリスの海岸沿いを監視している慈善団体NCI(National Coastwatch Institution)は、ポニーの事故を受け、写真を撮りたい人に対し、動物との適切な距離について学ぶことを勧めています。
NCIはFacebookへの投稿で、「ほぼ毎日、馬をなでたり、馬と一緒にセルフィーを撮ろうとしている一般の人々を見かけます。私たちはそのたびに、馬が野生か半野生であることを説明しています」と述べ、観光客が馬の生態について理解しておらず、また自撮りの文化が行動をエスカレートさせていると指摘しました。
そして最近、若い女性が牡馬に蹴られる事故があったことを報告し、馬を撮影する際には、「距離を保ち、ズーム機能を使用し、安全を確保する」よう呼び掛けています。
現地の人や動物の迷惑にならないように観光してほしいよね
カントリーサイド・コードに自撮りに関する項目を追加すべきだ、っていう声もあるみたいだよ
Reference: BBC