27000年前のナマケモノの歯が語る彼らの意外な適応力

自然
photo by S. Rae

現代に生きるナマケモノはまるで彼らだけの時間軸を持っているかのようにゆったりと樹上で過ごしています。

多様な進化を遂げて今の形になったのだとしても、それらの先祖や近縁種が同じような生活をしていたとは限りません。

 

最近の調査によると27000年前に絶滅したナマケモノの近縁種は環境に適応する能力が高いことがわかりました。

彼らは水を求めて行ったことのない場所にさえ足を伸ばしています。

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最終氷期に生きたナマケモノの近縁種、エレモテリウム

 

発見されたエレモテリウムの歯の一部。Structure of E. laurillardi tooth. Credit:ScienceAdvances

 

2014年に中央アメリカのベリーズでマヤ文明の遺物を探していたダイバーは、セノーテと呼ばれる泉の底で巨大な動物のものとみられる複数の骨を発見しました。

見つかった骨には上腕骨、大腿骨、歯といった部分が含まれていて、調査の結果それが古代のナマケモノ、エレモテリウム (Eremotherium) のものだとわかりました。

 

古生物学者たちは見つかった化石の中でも特に歯について注目しました。

歯を調べることはエレモテリウムが何を食べどんな環境で生きていたのかを探るための重要なヒントにつながります。

 

化石分析の結果をScience Advances誌に掲載したイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の人類学教授Stanley Ambrose氏は、歯が完全に化石化していないことで古代のナマケモノの詳細に迫ることができたと語ります。

 

歯の組織を調べることでナマケモノの食事と季節ごとの変化を追跡することができるようになります。また放射性年代測定の信頼性を高めるために歯の優良な部分を選択することができました。

 

通常科学者は生物の食事について研究するときには歯のエナメル質を用います。

エナメル質を含む歯の化石は長い間その形状をとどめておくことができますが、エレモテリウムの歯にはエナメル質が含まれていません。

そのためこれまでに見つかった歯の化石からは正確なデータを得ることができませんでした。

今回セノーテの底で発見された歯は部分的にしか化石化していないため、当時の状態に極めて近いものといえます。

 


 

現在のベリーズは緑豊かでジャングルなども豊富ですが、エレモテリウムが生きていた時代にはとても乾燥していました。

この時代は最終氷期とも呼ばれ現在の熱帯地方の多くは乾燥しとても寒い気候でした。

エレモテリウムは現代の近縁種であるナマケモノとは異なり、サバンナに開けた草原地帯に住んでいました。

 

イリノイ大学の主席研究著者および大学院生であるJean Larmon氏は、エレモテリウムが多様な食生活をしていたと語ります。

 

この巨大で社会的な生き物は比較的容易に乾いた気候に適応することができたと考えられます。彼らは利用可能な美味しいものを食べることで生きながらえることができました。

 

最終氷期には環境に適応できなかった多くの生物が絶滅しましたが、エレモテリウムが(最終的に絶滅したにしても)長い間生きながらえることができたのはこの食に対する適応力があります。

彼らは食料が少ないときはそれがある場所を求めて積極的に移動していました。

 

エレモテリウムは現在のブラジル南部から北米の湾岸に至る大西洋沿岸全般に分布していたことがわかっています。

 

エレモテリウムの絶滅には人間も関係していた

 

エレモテリウムと同時代に生きたナマケモノの近縁種メガテリウム Public Domain,Wikimedia

 

変化する環境にうまく適応したエレモテリウムも最終的には絶滅の道をたどります。

研究著者であるアーバナ・シャンペーン校の人類学教授Lisa Lucero氏は、彼らの適応力が自身の絶滅につながったかもしれないと語ります。

 

化石が見つかった場所はセノーテと呼ばれる地下に広がる泉でした。

エレモテリウムは乾いた地上を逃れ水分を得るために地下に向かいますが、皮肉なことに今度は地上に這い上がることができませんでした。

研究チームは化石の持ち主が4m近い体高であり、水分補給に泉に降りた後地上に戻れなくなったのが死因だったのではないかと推測しています。

 


 

エレモテリウムは最終氷期の間に絶滅しましたが穴に落ちて這い上がれなくなったことが原因の全てではありません。

調査結果は彼らの絶滅には複数の要因があると結論づけています。

 

Lucero氏は気候変動や多くの要因がアメリカ大陸の巨大動物の絶滅の一因となったと語り次のように付け加えました。

 

そして潜在的な要因のうちの一つは、12000年から13000年前に現地に登場した人間です。

 

最終氷期が終わるほんの数千年前にこの地域に登場した人類は、エレモテリウムや南アメリカに生息していたメガテリウムといったナマケモノの祖先たちを狩りの対象にしていたと考えられています。

食に対する適応力も気候変動や人間の脅威には太刀打ちできなかったのです。

 

 

 


 

絶滅した生物の化石は歯一本からでさえ様々なことを教えてくれます。

穴に落ちて命を落としてしまったエレモテリウムはもう地上に存在しませんが、近縁種であるナマケモノは今日もゆっくりと木の上で過ごしています。

気候変動は仕方のないことですが、せめて私たち人間が彼らの絶滅の原因にならないことを願いたいものです。

 

 

References,CNN,ScienceAdvances

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