再生可能エネルギーは、地球温暖化が進行するにつれ、ますます注目されるようになっています。
なかでも太陽光発電は、設置のしやすさやコスト面などから、クリーンエネルギーにおける主役として普及が進んでいます。
こうした自然を活用したエネルギーは、地球環境の維持のために、今後もなくてはならないものとして利用されていくでしょう。
一方で、太陽光発電や風力発電などの施設が、周囲の生態系にどのような影響を与えているのかについてはほとんどわかっていません。
イギリスで行われた調査によると、ソーラーパネルは周囲のコウモリの行動を変化させます。
これは生態系の健全性を失わせ、害虫の数が増えるなど、人間の生活にも影響を及ぼします。
ソーラーパネルはコウモリの活動量を減らす
英国ブリストル大学の生物学者であるギャレス・ジョーンズ教授の研究チームは、ソーラーパネルを設置した農場が、周囲のコウモリの行動をどのように変化させるのかを知るため、コウモリの言語であるエコーロケーション(反響定位)を記録しました。
コウモリは夜間に活動する生き物で、飛行の際に超音波を出し、それが物質に当たって跳ね返る時間を計測することで、周囲の状況を把握します。
エコーロケションはコウモリのほかにも、一部の鳥やクジラなどが利用し、その周波数はそれぞれ異なります。
チームは、ソーラーパネルを設置した畑とソーラーパネルのない隣接した畑を一組とし、合計19ペアの農場で、一週間、エコーロケーションを測定しました。
畑の違いはソーラーパネルがあるかどうかだけで、面積や土地の利用の仕方、周囲の生垣の状況などは、可能な限り一致するよう調整されました。
測定の結果、コウモリのうちの8種で行動に違いが見られました。
これらのコウモリは、ソーラーパネルのない畑と比べ、ソーラーパネルのある畑では活動量が低下しました。
イギリスで一般的に見られるヨーロッパアブラコウモリは、ソーラーパネルのある畑の端で40%、中心部では86%活動が減少しました。
ソーラーパネルに近づくほど活発さを失う傾向は、このほかに、ソプラノアブラコウモリ、ユーラシアコヤマコウモリ、コウライクビワコウモリ、ウサギコウモリなどで確認されました。
全体としてコウモリの活動量は、ソーラーパネルのある畑の中心部で3分の2、端ではほぼ半分に低下しました。
ソーラーパネルが生態系に与える影響
ソーラーパネルの設置の仕方によって生態系への影響が変わる (Green Voltaics Energy/Unsplash)
コウモリがソーラーパネルを避ける理由は2つあります。
1つ目は、ソーラーパネルが水平に近い平面であることです。
コウモリのエコーロケーションは、餌となる昆虫や地形を把握するために使われますが、ソーラーパネルのような構造物に反射した場合、そこを水場と勘違いしてしまうことがあります。
自然界では水面を除き、水平な場所というのがほとんどなく、過去の実験では、コウモリが人工的に作られた水平面に衝突する例が報告されています。
コウモリはソーラーパネルを水場と間違えたり、あるいはそこから反射される音波を元に、ここが食事に適したエリアではないと認識した可能性があります。
もう1つの理由は、ソーラーパネルの設置により、昆虫などの住める環境が失われてしまっていることです
これはソーラーパネルの周辺で活動量が減少したことからも推測できます。
クリーンエネルギー施設が、生態系に何らかの影響を与えている証拠は過去にも確認されています。
たとえばアメリカの2012年のデータでは、風力タービンの羽根に衝突し、約88万8000匹のコウモリが命を落としていることが報告されました。
ソーラーパネルは、風力発電ほどはコウモリの生態に影響を与えないかもしれません。
しかしクリーンエネルギーの需要が今後さらに高まることは確実であり、施設を新たに作る際には、周囲の生態系を考慮に入れた計画が必要になるでしょう。
ソーラーパネルの場合、より高い生垣を作ったり、境界に沿って在来の木を植えたりすることで、コウモリの餌となる昆虫が住む場所を確保できます。
また単純に、コウモリがめったに訪れないエリアを設置場所にするという方法もあります。
ジョーンズ教授は、「太陽光発電は世界で最も急速に成長している再生可能エネルギー源であり、その発電能力は2026年に天然ガスを、2027年までに石炭を追い越すと予測されています。エコロジカル・フットプリントを最小限に抑えることは、現在特に重要な課題となっています」と述べています。
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コウモリがいなくなるとやっかいな虫が増えちゃうんだよ
生態系を守るにはソーラーパネルの設置の仕方が重要なんだね
Reference: The Conversation