漁で使われる網の種類には刺し網があり、これを使った漁を「刺し網漁」と呼びます。
刺し網漁は狙った魚を捕獲しやすい一方で、網目の大きさとあわない魚も絡めとってしまい、多くの漁の対象ではない生物の命を奪うことでも知られています。
刺し網漁による混獲は、特に個体数が減っている魚や海洋生物にとって種の存続を脅かす脅威です。
英国エクセター大学と、ペルーの海洋生物の保護活動を行う非営利組織Pro Delphinusとの共同研究は、刺し網に一工夫を加えるだけで、対象魚以外が網にかかる確率を劇的に減らせることを明らかにしています。
この手法が普及すれば、魚だけでなく、ウミガメやイルカ、エイやサメといった大きな個体が網にかかる事故を防ぐことができます。
刺し網漁による混獲を防ぐアイテム、それは「LEDライト」
Credit: Pro Delphinus
エクセター大学とPro Delphinusの共同チームは、ペルーの3つの港から出航する小型船舶を2015年から2018年にかけて調査しています。
調査では船に協力してもらい、刺し網漁で使う網に「LEDライト」を装着し実際に漁を行いました。
過去の研究でLEDライトは、周囲の海鳥たちに網の存在を知らせるのに役立つことが示されています。
海鳥は刺し網にかかった魚に群がり、時に網に絡めとられて命を落とすことがあります。
以前の調査ではLEDライトの照明効果が、刺し網漁での海鳥の混獲を85%削減したことがわかっています。
刺し網漁は世界の小規模漁業にとって最も一般的な漁法の一つです。
したがってこの漁法による混獲を減らすことは、世界の海の資源と種の保全に大きく貢献します。
研究に参加したエクセター大学のアレッサンドラ・ビエリ氏は「刺し網漁は絶滅の危機に瀕しているウミガメ、クジラ、イルカ、海鳥などの海洋種を混獲することがある」と述べます。
ビエリ氏は、この問題を解決するための手段がほとんど開発されていないと語り、混獲による海洋生物の被害をなくすためには早急な対策が必要であると考えています。
LEDライトは漁獲量を減らさずに海洋生物保護に貢献できる
調査では刺し網のフロートライン――海に浮かんでいる部分――に沿って10メートルごとに864個のLEDライトを装着しました。
そしてLEDライトを装着していない刺し網漁と比較し、とれた魚や混獲された種の内訳を確認しました。
その結果LEDライトを装着した刺し網漁では、ウミガメの偶発的な混獲を70%以上、イルカやネズミイルカを含む小さなクジラ類の混獲を66%削減できることがわかりました。
また――漁師にとってはありがたいことに――LEDライトの装着が漁獲量を減らさないこともわかりました。
今回の研究で実際に捕獲されたウミガメの種の86%がアオウミガメで、その他にはヒメウミガメ、アカウミガメがいました。(関連記事: 生命の神秘!サッカーコート1,000個分にも広がるヒメウミガメの大群)
これら3種はいずれも絶滅が危惧されており生息数が懸念されています。
またクジラ類では、ハセイルカが47%、ハラジロカマイルカが26%、コハリイルカが24%でした。
これらのイルカは現時点では絶滅の恐れが少ないとされていますが、生態がよくわかっていないこともあり慎重な扱いが求められる種です。
エクセター大学の出身である、Pro Delphinusのジェフリー・マンゲル博士は、LEDライトの効果について次のように述べています。
イルミネーションされた刺し網漁での混獲の劇的な減少は、この単純で比較的低コストの技術がどのように海洋生物を助け、また漁師の持続可能な漁業を可能にするのかを示しています。
研究者たちは、海洋生物の保護にLEDライトが有用であるとしながらも、将来的にはもっと堅牢で安価なLEDライトが普及する必要があると結論づけています。
世界の多くの地域で刺し網漁が盛んに行われています。
先日は、オーストラリアの刺し網漁により希少なノコギリエイが混獲され、その数が急速に減っているという報告がありました。(関連記事: 2週間の調査で発見数ゼロ、絶滅の危機にあるオーストラリアの「ノコギリエイ」)
今回の調査でも、絶滅が危惧されているウミガメやイルカが頻繁に網にかかっていたことが示されています。
しかし海洋生物の保護の必要性を訴えるだけでは、漁師たちの漁のやり方を変えることはできません。
LEDライトは、漁師の負担を増やさずに海洋生物の保護に貢献できる可能性を秘めています。
漁獲量を減らさない「LEDライトの装着」という方法は、将来の漁業が環境保護に取り組むための具体的な方法の一つになるかもしれません。

ウミガメや海鳥がLEDライトを避ける理由はよくわかってないみたい

漁獲量が減らないなら試してみる価値はあるが、漁師がメリットを感じるかどうかが問題だな

海洋生物を守るためにもLEDがもっと安くなるといいね
References: EurekAlert!