世界には5億頭以上の犬や猫がペットして飼われていて人間と共に生活をしています。
ペットも人間と同じく生きていくためには食べる必要があります。
幸い飼われている犬は自分で獲物を狩る必要がありません。
昨今のペットフードには、栄養バランスを重視したものから、人間が食べても遜色ないような高級品まで、いまやどちらが主人なのかわからなくなるほど豊富なメニューがあります。
ペットフード業界は10億ドル規模の市場です。
しかしそのペットフードが何を元に作られ、それが環境にどんな影響を与えているのかについてはあまり語られることはありません。
そんな誰も気にも留めないペットフードが及ぼす地球や環境への影響について、真面目に考え行動に移した人がいました。
ペットフードに使われる資源は数千万人分の食料に匹敵する
ある調査では、世界の肉や魚の消費量のうち約20%をペットフードが占めているとしています。
食料生産には水や土地、飼料や農薬など様々な要素が関わってきますが、その生産量が増えるにしたがって環境に及ぼす影響も大きくなります。
世界の人口が急激に増加している現在、食料問題は無視することのできない緊急の課題です。
もしペットフードを別の何かで代用することができればその問題の解決につながるかもしれない……。
そんなことを考え実際に商品化している人たちがいました。
イギリスのペットフード会社Yoraはあるドッグフードを開発しました。
会社の創設者であるTom Neish氏は、過去20年以上ペット業界で働いてきたベテランです。
Neish氏はある時、ペットフードの素材が人間の食べるものと同じレベルであることに気づき疑問を抱きます。
高級ペットフードは素晴らしい製品ですが、地球の温暖化や資源の減少を考えたとき私たちは本当にペットに高級な肉を与えるべきなのでしょうか。
この疑問は確かに尋ねる価値があります。
UCLAの最近の研究では、ペットフードに使われている肉の25%を人間の消費に回すと、アメリカの2600万人以上の食料に相当することがわかっています。
このままだと今後ペットを飼う人が増えるにつれて、ペットフードに使われる高級素材も増えていくことになります。
Tom Neish氏はその疑問に自ら答えるべく、高級品にもひけをとらない食材を探しました。
そしてようやく見つけたものが、安価で高タンパク質である蠅の幼虫“蛆虫”でした。
すばらしい栄養と安価な生産、そして環境にもやさしい食材「蛆虫」
ペットを飼っている人ならば誰しもがNeish氏の選択に眉をひそめるでしょう――私たちのペットになんてものを食べさせるのだ、と。
しかしNeish氏は、犬は食べられるものであればどんな形のものでも食べることを飼い主は知っているはずだといいます。
要するに見た目を気にするのは人間だけではないか、ということです。
蛆虫を原料にしたペットフードには大きな利点があります。
実際に蛆虫をはじめとした昆虫食は環境にやさしく、牛肉にも匹敵する栄養素を持つことで最近注目されています。
脂肪やタンパク質だけでなく、ビタミンやミネラルの優れた供給源でもあります。
BBCがロイヤル・ベタリナリー大学のペットダイエット専門家であるAarti Kathrani氏に尋ねたところ、昆虫は非常に有用なタンパク質源になることを認めています。
これらの栄養素が実際にどれだけ犬の身体に吸収されるのかはさらなる研究が必要です。しかしこれまでの結果によれば昆虫が犬に栄養素を提供できることは確かです。
Yoraが試算した蛆虫を使ったドッグフードと他のドッグフードとの環境に与える影響を示したのが下の図です。
Image Credit:Yora © 2019
比較対象は牛と鶏、そして蛆虫です。
左の緑のグラフは生産に必要な土地の広さを表しています。
同じように中央のグラフは温室効果ガスの排出量、右の青のグラフは生産に必要な水の量を表しています。
単純計算では牛を使った場合に比べて必要な土地が47倍、温室効果ガスの排出量が25倍、1リットルあたりの水の消費量が20倍、それぞれ蛆虫のほうが経済的で環境にやさしいことがわかります。
そしてさらに素晴らしいことは、これらの違いがあるにも関わらず摂取できるタンパク質が牛や鶏とほぼ変わらないことです。
Yoraはこのドッグフードを「世界を変えることを約束する新製品」と銘打っています。
植物性食品廃棄物で育てられた幼虫は、1食あたり23%の粗タンパク質を含みます。
そしてそれを包む素材にはオート麦やジャガイモ、その他の天然植物が含まれています。
また成長ホルモンを使用していないため薬剤が残る心配もありません。
Image Credit:Yora © 2019
これは実際にYoraが販売しているドッグフードです。
見た目は普通のドッグフードで少し安心しますね。
これなら「ウチの犬に蛆虫なんて食べさせられない」と憤慨する方も、少しは考えが変わるかもしれません。
見た目のことはさておき、こうした環境や食料事情に適したペットフードというのはこれからどんどん出てくる可能性があります。
ペットと人間が共存していくためには地球のことも考えなければなりません。
蛆虫でできたドッグフードが世界の食料事情を救う、なんてことも案外ありうる未来かもしれませんね。
意外な食材でできたドッグフードの話題でした。
References:sciencealert,BBC