政治的、宗教的に大きな力を持っていた古代ケルトの祭司ドルイドは、自分たちの知恵を口承で次の世代に引き継いでいきました。
ケルトには文字を残すという文化がなかったため、ドルイドは神秘の魔術師のようなイメージで語られています。
しかしドルイドの知恵は十分に科学的であり、古代の人々だけでなく、現代人にも大きな恩恵をもたらします。
北アイルランドには、ケルトの時代から伝わる「癒しの土地」があります。
この土地の成分は古くから病気を治すことで知られてきました。
ドルイドが後世に残した土地は、将来人類を救うカギとなる可能性があります。
抗生物質が効かないスーパーバグを倒す細菌
北アイルランドのファーマナ県にあるボーホー・ハイランドは、古くから病気を治す土地として地元の人に知られてきました。
伝承の始まりは、ケルトのドルイドがいた頃よりももっと前、おそらく新石器時代にまでさかのぼります。
この場所の土は、歯痛、首の痛み、喉の痛み、また多くの感染症に効果があるとされています。
今回、各地の民間伝承を調査しているグループがこの土地を訪れ、土壌の化学分析を行っています。
ウェールズ、ブラジル、イラク、北アイルランドなどの科学者で構成された国際的な研究チームは、伝承の元となっている成分を特定するため、土のサンプルを研究室に持ち帰り分析を行いました。
その結果、癒しの土には、「スーパーバグ」に対して効果がある細菌が含まれていることがわかりました。
スーパーバグは抗生物質に耐性をもつ菌の総称です。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などのいくつかの菌種は、現代医療の要ともいえる抗生物質に対し強い抵抗力を持ち、薬を効きにくくします。
スーパーバグの数は今後増加していくと予想されており、世界保健機関はスーパーバグを、「世界の健康と食料安全保障に対する最大の脅威の一つ」としています。
MRSAに対してはいくつかの抗菌薬が開発されていますが、次第に効かなくなったり強い副作用が出るなどの弊害もあります。
Streptomyces sp. myrophoreaのコロニー (Youngbohemian/CC BY-SA 4.0)
ボーホー・ハイランドの土壌から見つかった細菌は「Streptomyces sp. myrophorea」と呼ばれるもので、スーパーバグ6種のうちの4種に対し効果があります。
研究者の一人で、英国スウォンジー大学の医学部教授であるポール・ダイソン氏は、「新しい菌株はMRSAを含む4つの耐性菌に対し効果がある」と述べ、「この発見は、抗生物質に耐性を持つ菌との戦いにおける重要な一歩だ」と強調しました。
研究チームは、細菌がどのようにして耐性菌の増殖を妨げるのかについては特定しておらず、今後分析を続けその仕組みを明らかにしたいとしています。
古くから伝わるものには、現代の問題に対処するための力が宿っています。
ダイソン氏は、「問題解決の方法は過去の知恵に隠されているかもしれない」と述べ、民間伝承や民間療法は、新しい薬の開発につながる可能性があると指摘しています。
研究結果はFrontiers in Microbiologyに掲載されました。

昔話や言い伝えは人類の知恵の結晶ということだな

世界各地の伝承を調べればすごい発見がありそうだね
(2018年12月の記事に加筆、修正を加えました)