最大の問題は「慣れ」 動物注意の標識は衝突事故を防ぐことができない

動物
(Datingjungle/Unsplash)

道路を走行中、ふと出現する珍しい標識に目を奪われることがあります。

シカやサル、イノシシやウシなどが描かれた動物注意の標識は、ドライバーに対し、動物が道路に飛び出してくる危険性を知らせるものです。

動物との衝突は車を傷つけるだけでなく、ドライバーに身体的、心理的被害を与えます。

しかしこれらの警戒標識は、実際にどれだけ事故の防止に役立っているのでしょうか。

 

オーストラリアの研究者は、動物注意の標識と道路を横断する動物の調査を行い、標識の抱える問題点を指摘しています。

従来の警戒標識は、ただそこにあるだけでは、十分な機能を果たすことができません。

 

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動物注意の標識は衝突の防止に役立っていない

 

固有種が数多く生息するオーストラリアでは、カンガルー、コアラ、ハリモグラ、ウォンバットといった、国を代表する動物の標識が至る所で見られます。

これらの動物は観光資源としても重要であり、標識には、ドライバー側の損失を防ぐ以上の目的があります。

しかし動物注意の標識により事故の件数が減るのかというと、決してそんなことはありません。

オーストラリアの損害保険会社AAMIによると、2022年の動物衝突事故での保険金請求の件数は、1万7000件以上でした。

これは車の損傷を伴わない事故を除外した数値で、実際の衝突事故はさらに多くなります。

またCSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)の2018年の調査では、毎年少なくとも400万頭の哺乳類が車との衝突、いわゆるロードキルによって命を落としていることが明らかになっています。

こうした証拠は、動物注意の標識が本来の目的を果たしていないことを示しています。

 

オーストラリアには様々な動物注意標識がある (Lynnette Greenslade/Unsplash)

 

動物の標識と道路の生態学について20年以上の研究を行ってきたグリフィス大学のダリル・ジョーンズ氏は、標識の最大の問題点の一つに、「人々がそれに慣れてしまうこと」を挙げています。

オーストラリアの自治体のうち、特に特殊な生態系が発展している地域では、衝突を防ぐための対策として、しばしば動物注意の標識が使用されます。

動物の標識は一般的な標識と比べると目を引くため、事故の防止に役立つと考えられがちです。

しかしこうした標識は、初めてその場所を通るドライバーには有効ですが、地元の人や道路を何度も利用する人にとっては、過ぎ去る景色の一つでしかありません。

ジョーンズ氏は、「カンガルーの標識は、そこを通り過ぎるドライバーに“ちょっと気を付けたほうがいいよ”と呼びかけます。しかし週に50回も同じ標識を見れば、それをまったく気にしなくなります」と述べています。

 

“標識に対するドライバーの慣れ”という問題については、行政側も認識しつつあります。

オーストラリア首都特別地域(ACT)の広報担当者は、「標識を見ても、それらの動物が定期的に現れなければ、ドライバーはそれを無視する傾向がある」と述べ、現在都市部では、このような標識を使用しなくなってきていると説明しています。

 

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動物との衝突を防ぐデジタル標識

 

動物との衝突を防ぐ方法に標識が使えないとすれば、他にどんな方法があるのでしょうか。

従来の標識は、動物がそこに存在するかもしれないという情報を、ドライバーに対し一方的に提示するだけのものでした。

これは一時的にはドライバーの注意を引きますが、実際にその動物に遭遇しない限り、すぐに記憶の外に押しやられてしまいます。

ではもし標識が、周囲の状況に応じ表示内容を変えたとしたらどうでしょう?

あるいはドライバーに対し、具体的な行動をとるよう促すとしたら?

この考え方に基づき、現在オーストラリアの一部の地域では、「デジタル標識」が導入され始めています。

 

デジタル標識は、動物に付けられたタグの情報と、ドライバーの車両情報を元に、危険性をその都度表示するものです。

例えばクイーンズランド州のレッドランド市議会は、「スマートコアラ標識」を、既に多数設置しています。

これはタグを付けたコアラが道路に近づくと、その情報が標識に表示されるものです。

また別の方法として検討されているのは、動物の横断の際に、近づいてくる車両のナンバーを標識に表示するものです。

これによりドライバーは、自分に対してだけ向けられた注意喚起を受け取り、スピードを落とすようになります。

 

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動物注意の標識がアップデートされても、道路自体はなくなりません。

動物はこれまで、離れた地域の個体と繁殖を繰り返すことで種を存続させてきました。

しかし人間が道路を作ったことで自由な行き来が制限され、狭いエリアに閉じ込められるようになりました。

これにより遺伝的多様性が失われ、多くの集団が、環境の変化に対応できなくなり姿を消しました。

ジョーンズ氏は、「動物が好きな方向に進めば最終的には道路にたどり着く」と述べ、動物を守るには、陸橋など、動物のための安全な通り道が必要であると指摘しています。

 

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かなで
かなで

デジタル標識があれば衝突事故も少なくなるね

ふうか
ふうか

道路を使うのは人間だけじゃないという意識が大事だな

 

Reference: ABC News