2019年12月7日、オーストラリアのシドニー動物園が開園しました。
シドニーでは100年以上ぶりとなる動物園の開園は多くの市民に歓迎されています。
現在世界には数え切れないほどの動物園が存在しています。
世界動物園水族館協会(World Association of Zoos and Aquariums-WAZA)に加盟している動物園と水族館の数は400を越えています。
動物園は元々権力者の見世物から始まりました。
その後科学的な研究のために利用されるようになり、一般の人たちが訪れる観光スポットへと変化を遂げてきました。
動物園には本来その土地には生息していない動物が多数飼育されています。
この状態は動物にとって「自然」な状態ではありません。
そのため、動物園の新たな建設や、動物園の存在そのものに対し批判的な見方をする人もいます。
世界には今ある以上の動物園が本当に必要なのでしょうか。
動物園の存在に対する否定的な見方
© Sydney Zoo 2019
シドニー動物園には、ライオン、スマトラトラ、チーター、チンパンジー、そしてオーストラリアの野生生物など様々な地域の動物が飼育されています。
動物園のマネージングディレクター、ジェイク・バージェス氏は、園内の動物の福祉について次のように語ります。
多くの展示には、動物が快適に休めるように空調の効いたスペースが用意されています。ミストステーションや日よけの構造も備えています。
動物を狭い場所に閉じ込めることに対する批判的な意見に対し、世界の動物園は、悪い印象を払拭するための様々な対策を講じてきました。
定期的な掃除の際に動物を無理やり移動させないために、掃除ロボットを採用したり、ネコ科の動物の狩りの本能を衰えさせないために、餌を空中に放り投げる機械を設置したりしています。
シドニー動物園は、動物福祉が「第一の考慮事項」であると主張していますが、全ての人がこれに納得しているわけではありません。
米国コロラド大学の進化生物学教授、マーク・ベコフ氏は、動物園という存在に対し強烈な言葉を投げかけています。
それは――これ以上の動物園は必要ない、というものです。
ベコフ教授たちの研究グループは、動物園に閉じ込められた動物が、大きなストレスや恐怖、そして退屈の感情を抱いていることを報告しています。
教授は、動物園の動物たちは、飼われている犬や猫と同じような感情を抱くとしています。
これは動物がストレスに晒されることで、自然で生きるよりもはるかに寿命が短くなることを意味します。
動物園の問題は他にもあります。
2016年、米国シンシナティ動物園で起きたゴリラの射殺事件は、動物園の存在意義について多くの人が考えるきっかけになりました。(囲いの中に落ちた3歳児を救うために、ハランベという名前のゴリラが射殺されました)
またイルカショーでは、過去に何件ものトレーナーの死亡事故が起きています。
ロンドンの動物園では2001年に、飼育員が満員の観客の前で象に殺される事故が起きています。
こうした事故は、動物が自然の中にいたならばそもそも起こらないものです。
動物園という自然と比べて著しく狭い場所に閉じ込められている動物たちは、来園者が想像できないほどの強いストレスを日々感じています。
動物園には別の脅威もあります。
それは動物園の運営がストップした場合です。
動物福祉団体World Animal Protectionのベン・ピアソン氏は、動物園が倒産した場合、飼育されていた動物たちは苦痛を受けることになると警告します。
シドニーのタロンガ動物園や、メルボルン動物園など一部の動物園には公的な資金が入っているため、比較的高い福祉基準を満たすことができます。
しかしそうでない動物園には常に倒産の危険性があります。
ピアソン氏は、もしシドニー動物園が倒産したならば、ダブリンからやってきた象は、再び苦痛を増した状態で送り返されることになると話しています。
動物保護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)は、今回のシドニー動物園の開園に際し、「それを祝うべきではない」とし、オーストラリアの人は動物園に情熱を注ぐのではなく、野生の動物を支援する組織に寄付するべきだと主張しています。
動物園の持つ利点と動物園だからできること
動物園が野生で生きる動物にとって自然の状態でないことは確かです。
飼育員のどんな素晴らしいアイデアも、動物たちのストレスを完全に取り除くことはできません。
しかし動物園にも利点がないわけではありません。
シドニー大学の獣医学の教授、デイビッド・ファレン氏は、動物園のチーターに関節炎の炎症が起こる確率が高いことを研究で明らかにしました。
しかしファレン氏は、動物園にも利点があると述べます。
多くの国が都市化するにつれ、動物園は人々がより広い環境について気づくきっかけになります。彼らはデイビッド・アッテンボローを(テレビなどで)見るかもしれませんが、実際にトラを間近で見るのとは比べものになりません。
(デイビッド・アッテンボロー氏は動物学者や植物学者の経歴を生かし、数々の動物や自然のドキュメンタリー番組を制作しています)
教授は、人々の動物園での経験は、オランウータンのような動物の生息地を破壊するパーム油を含む製品のボイコットなど、動物福祉や自然環境保護などについての熱意につながるだろうと話しています。
現在人間が使う製品のために自然環境が破壊され、そこに住んでいる動物たちの数が減少しています。
動物園でそうした危機にある動物を間近で見る経験は、人々の、動物と自然への関心を高めることにつながります。
WAZAは加盟している動物園や水族館に対し、運用支出の10%を保護活動に費やすよう奨励しています。
シドニー動物園はWAZAの認定を受けています。
動物園には、傷ついた動物を助け野生に戻したり、来園者に動物の特徴を伝えそれらが生態系にどう関わっているのかについて教育できる力があります。
また世界には、野生の環境では絶滅に瀕している種を保護している動物園もあります。
動物園に対し批判的な見方をする人たちは、動物の福祉を最優先だと考えます。
しかし動物園とそこで飼育されている動物たちは、自然という普段なかなか触れることのできない領域について教えてくれる貴重なメッセンジャーでもあります。
動物園の存在意義についての議論は、人々に、自然や動物に対しもっと関心を向けるよう促しています。
動物園は動物にとってはあまり楽しい場所じゃないのかもしれないね
でも動物が自然や地球についていろんなことを教えてくれるのも確か……
普段見れない動物に会えたり、癒されたり……動物園は魅力がいっぱいだねー!
References: BBC