マイルカ科の中で最大級の大きさを誇り独自のコミュニケーションスキルを持つ海の王者シャチですが、今回新たに1つのグループが加わることになるかもしれません。
シャチは世界中の海に生息する社会性をもつ生き物ですが、食べるものや遺伝子の違いによって4つのグループに分類されています。
そのなかで最も目撃例が少ないタイプDとよばれるシャチの群れが発見され、科学者たちはこれを「伝説のシャチ」と呼んでいます。
タイプDのシャチの発見は60年以上ぶり
アメリカ海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration-NOAA)の研究船Australisでシャチの研究をしている科学者たちは今年の1月、チリ南端にあるホーン岬沖の凍った海で伝説の“タイプD”のシャチを発見しました。
Type D Killer Whales – 1st Encounter
タイプDのシャチは1955年にニュージーランドに座礁したシャチが初めての事例で、その後は漁師の話や観光写真からの散発的な情報しか得られていませんでした。
タイプDの組織と歯のサンプルは1955年のシャチから収集され保存されていましたが、後の調査でこのシャチが他のA、B、Cのグループとは遺伝的に異なっていることがわかりました。
今回チリで発見されたシャチの組織が1955年のものと一致すればタイプDについてもっと多くの情報がもたらされることになります。
科学者たちは発見されたシャチに対して生命に危険が及ばない程度の傷をつけそこから組織のサンプルを入手しました。
14年以上タイプDのシャチを探し続けてきたNOAAの海洋生態学者Bob Pitman氏は、今回組織を入手できたことにとても興奮していると語ります。
タイプDのシャチは地球上に残された記載されていない最大級の動物です。今回の発見は私たちが海についてどれほど知らないのかについての指標となる可能性があります。
タイプDのシャチは視覚的に他のタイプのものと異なるのが大きな特徴です。
また彼らはとても冷たい南極圏の近くの水域に住んでいて研究者たちはその呼び名を「亜南極シャチ」にするよう提案しています。
シャチの4つのタイプとその違い
タイプDは水平なアイパッチが特徴 Photo by Albino.orca:Killer Whale Types – シャチ – Wikipedia
ここでA、B、Cのタイプの違いを見てみましょう。
一般的にシャチと言えばこのタイプAのことをいい、外洋に住む最も大きいシャチです。
主にミンククジラを主食としています。
主にアザラシを食べるタイプでアイパッチ(目の後ろにある白い部分)が最も大きいのが特徴です。
最も小さいタイプのシャチです。
タラを始めとした魚食性でシャチの中で最も大きな群れをつくるのが特徴です。
それぞれが見た目や食性の違いがありますが、タイプDだけはこの3タイプのものと交配した記録がなく全く別の種である可能性があります。
研究者たちは今回のタイプDとの遭遇で組織サンプル以外にも、水面と水面下で撮影された30以上の群れの映像を入手しています。
またシャチがコミュニケーションに使う音を録音することにも成功しました。
これらを他のタイプのシャチと比較することでこれまで明かされてこなかった彼らの生態に迫ることができます。
研究チームは持ち帰った組織のDNAを調べて数か月後には結果を発表できるとしています。
チリ南端で働いていた漁師は、自分たちの魚を狙う複数のシャチの群れがいたことを証言しています。
それによると、あまり見たことのないタイプのシャチ(タイプD)は他のシャチ(タイプD以外のシャチ)がいると船から遠ざかっていったそうです。
順番を守ったのかシャイなのかは分かりませんが、巨体でありながら遠慮をみせるところはなんとも微笑ましい感じがしますね。
References:NOAA Fisheries,ScienceAlert