急速に姿を消している「ノコギリエイ」 90ヵ国中46ヵ国で絶滅状態に

動物
(Largetooth sawfish/Simon Fraser University/CC BY 2.0)

世界中の熱帯、亜熱帯の海域に生息するノコギリエイは、現在絶滅の危機にさらされています。

ノコギリエイは、頭の先から突き出たのこぎり状の「 (ふん)」を持つ魚で、大きなものは7メートル以上にも成長する、最大の海洋生物の一つです。

エイの仲間と同じように海底にへばりつき、小魚や貝類を捕食するノコギリエイは、古くから人々に利用されてきました。

名前の由来となった吻は、飾り物や儀式に使われ、鋭い歯は闘鶏の蹴爪として販売されました。

またサメではないにもかかわらず、ヒレは高級食材として流通し、肉は、特にアジアの伝統的な医療の材料として重宝されました。

 

ノコギリエイは、ここ数十年で急速に姿を消しており、2007年からはワシントン条約により国際的な取引が禁止されています。

しかし海底に潜むという性質と吻の形状から、トロール網や刺し網漁による混獲の被害を受けやすく、また適切な管理が行われていない国もあるため、個体数の回復には至っていません。

現在ノコギリエイには5種が存在し、そのどれもがIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて「絶滅危惧種」に分類されています。

ノコギリエイの個体数を回復させるには、実数の把握が不可欠ですが、海洋生物を正確にカウントするのは難しく、それが保護の遅れにつながっています。

 

カナダの研究グループは、各国の漁業データと保護の取り組み、そして複数の研究結果を使って、ノコギリエイの現在の生息数を分析しています。

ノコギリエイは、過去に姿が見られた90ヵ国のうちの半数以上で、すでに絶滅状態にあります。

 

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世界の海から姿を消しているノコギリエイ

 

カナダのサイモンフレイザー大学の科学者チームは、世界の沿岸に生息するノコギリエイの数を知るため、動的地理理論(Dynamic Geography Theory)と呼ばれる手法を使いました。

このモデルは、ノコギリエイが生息している世界90ヵ国の漁業データと、2014年から2019年までに発表されたノコギリエイに関する研究結果251件を元に、保護活動や漁獲圧の違いが、生息数にどう影響を及ぼすのかを推定するものです。

 

分析の結果、ノコギリエイは、90ヵ国中46ヵ国でほぼ絶滅状態にあることがわかりました。

5種のうちの1種が絶滅している国は18ヵ国、2種が姿を消したのは28ヵ国でした。

そのほか、55ヵ国の沿岸で局所的な絶滅が見られました。

 

ノコギリエイの絶滅に関係している国はそうでない国と比べ、漁獲圧が高い状態、すなわち持続可能ではない漁業が行われていました。

また環境汚染の度合いが高く、適切な対策がとられていない国でも絶滅が発生しました。

ノコギリエイは沿岸の浅い海底、および汽水域に生息しているため、水質汚染や、身を隠せるマングローブの消失に大きな影響を受けます。

シミュレーションでは、漁獲圧をゼロにした場合20.7%、マングローブの面積を現在の2倍にした場合10.1%、それぞれ絶滅の確率が減少しました。

 

ノコギリエイが絶滅している国は、確率の高い順に、ブルネイ、ジブチ、台湾、エルサルバドル、東ティモール、日本、ハイチ、イラクでした。

 

特徴的な吻をもつノコギリエイは混獲の被害を受けやすい (Credit: Peter Kyne/Simon Fraser University) 

 

一方、少ないながらも、ノコギリエイに恩恵をもたらしている国もありました。

最も希望のある国は、アメリカとオーストラリアです。

アメリカでは、沿岸に生息する2種のうちの1種(Smalltooth sawfish)については局所的な絶滅が見られるものの、もう一つの種(Largetooth sawfish)については、漁業規制や公的支援、生息地の保護などにより個体数が回復しています。

またオーストラリアの厳格な規制と保護は、周囲の海域に生息する4種のノコギリエイを絶滅から守る役割を果たしています。

他にも将来的に希望のある国として、キューバ、タンザニア、コロンビア、マダガスカル、パナマ、ブラジル、メキシコ、スリランカの8ヵ国が挙がっています。

これらの国の海域では、ノコギリエイが比較的安定して生息しており、ここに政府や保護活動家による適切な支援が加われば、種の存続の可能性はさらに高まります。

研究を行ったサイモンフレイザー大学のヘレン・ヤン氏は、分析結果について、「状況は悲惨だが、ノコギリエイにとって良い国もあるという部分を強調することで、悪いニュースを相殺したい。私たちが今行動すれば、従来の生息範囲の70%以上を戻すことは可能である」と述べています。

 

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ノコギリエイの突き出た吻は、漁業で使われる網に簡単に引っかかります。

しかし漁師にとって、目的の魚以外は不要な存在です。

オーストラリアでの調査によると、漁師の一部は捕らえたノコギリエイを海に戻さず、吻を切り取って、まるで勲章のように持ち帰ります。

 

 

オーストラリアは2019年にノコギリエイを、保護を最優先する絶滅危惧種のリストに加えています。

 

研究結果はScience Advancesに掲載されました。

 


 

 

かなで
かなで

ノコギリエイは吻を金属探知機みたいに使って餌を探すんだよ

せつな
せつな

独特過ぎるフォルムがかっこいい……

しぐれ
しぐれ

アメリカとオーストラリア以外でも積極的な保護が進むといいね

 

Reference: Simon Fraser University