絶滅したと考えられていたベトナムのマメジカが30年ぶりに発見される

動物
© 2019 Global Wildlife Conservation

1990年を最後に絶滅したと考えられてきた珍しい動物が30年ぶりに発見されました。

発見されたのは、ウサギほどの大きさしかない鹿のような風貌をした有蹄類「マメジカ」の一種で、ベトナムに固有の「ベトナムネズミジカ(Vietnam mouse-deer)」です。

名前とは裏腹にネズミでも鹿でもないその小さな動物は、絶滅が宣言された後も度々目撃情報があり、地元の人の多くはベトナムネズミジカの生存をずっと信じてきました。

 

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30年ぶりに発見された鹿のような小動物、ベトナムネズミジカ

 

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ベトナムの生物学者であり、ドイツのライプニッツ動物園野生生物研究所の博士課程の学生であるアン・グエン氏もベトナムネズミジカの生存を信じている一人でした。

グエン氏は長年の疑問を解決するため同僚と協力し、目撃情報のあった村を訪れ、ベトナムネズミジカが生息していそうな場所をピックアップしました。

1990年の最後の個体はベトナム北部で捕獲されましたが、目撃情報の多くはベトナム南部で報告されています。

そこでグエン氏たちのグループは、目撃情報のあったベトナム南部の海に面した都市ニャチャンにある森林地帯にカメラを仕掛けました。30台に及ぶカメラは森林一帯をカバーし、5カ月にわたって多くの哺乳類の写真を捉えることに成功します。

調査期間後に回収されたカメラからは2,000枚近い画像が得られ、そこには――地元の人の証言を裏付けるように――絶滅したベトナムネズミジカが含まれていました。

グエン氏は発見を振り返り「結果は驚くべきものだった」と興奮気味に語っています。

 

ベトナムネズミジカの発見は他の地域の絶滅した種の再発見につながる

 

© 2019 Global Wildlife Conservation

 

調査に協力した、絶滅の危機にある野生生物を保護する活動をしているNGO「Global Wildlife Conservation」のアンドリュー・ティルカー氏は、今回の発見が他の失われたと考えられている種の再発見に影響を与えるかもしれないと述べます。

 

ベトナムネズミジカは科学界にとって失われた種でしたが、地元の人々は生存を知っていました。今回の発見は地元の生態学的知識を利用することによってのみ成功しており、それは世界の他の地域の種でも再現することができます。

 

ベトナムネズミジカは1910年にニャチャン近郊で4つの標本が採集されてから1990年に最後の個体が記録されるまでの間、ほとんど科学的な検証が行われていませんでした。

80年近い間ベトナムネズミジカは、科学界にとっていわば忘れられた存在であり、知っているのは地元の住民だけという状態でした。

しかし絶滅が宣言されてからも目撃情報が頻繁にあったこと、そして科学的な検証がほとんど行われていなかったことがうまく結びつき今回の発見につながりました。

 

ティルカー氏ははじめ、1990年の個体が発見された地域がベトナム北部であり、一方で最近の目撃情報の多くがベトナム南部で報告されていることに頭を悩ませました。

野生の動物を調査するのは骨の折れる仕事です。

もし調査の場所を間違えたら収穫がないばかりか、その間に生きていたかもしれない動物が永遠に失われてしまうことも考えられます。

悩んだ結果グループが調査対象に選んだ地域は、地元の人たちの証言を優先したベトナム南部の都市ニャチャンの森林でした。

 

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結果、調査地域の選定はうまくいきベトナムネズミジカは発見されることになりましたが、もし過去にこの動物の科学的調査が進んでいたならば、地元住民の証言は後回しにされ発見はもっと遅れていたかもしれません。

ベトナムネズミジカは皮肉にも、科学者があまり関心を持ってこなかったことで発見されたと言えます。

野生生物の調査プロジェクトに地元の人の証言を取り入れるという視点は、世界の同じような“科学者の関心を引き付けなかった種”を発見するのに役立つ可能性があります。

 

ティルカー氏は「この発見は、ベトナムネズミジカが種の生存の脅威にさらされていないことを証明するものではない」と忠告しています。

そして現在東南アジアの森林地帯が人口増加や開発などによって急速に面積を減らしていることを挙げ、マメジカなどの希少な動物を守っていくための保護活動を一日でも早く始める必要があると訴えました。

 

 

 


 

マメジカもベトナムネズミジカも見た目が鹿に似ているものの、鹿でもなければネズミでもない固有の種です。

3,400万年前から生息してきたと考えられるマメジカは、これまでその形態をほとんど変えていないため“生きた化石”のような側面を持っています。

太古の姿を保持した動物は、自然や他の動物種を理解するための知識を科学者にもたらします。

しかしティルカー氏が指摘したように、環境破壊や人口増加などによって生息域である森林が減少していることから、仮に今回発見された以外に生息している個体があったとしても、今後どれだけ生き延びられるのかは未知数です。

 

生物学者のグエン氏は「今回の発見は、それを再び失わないことを確実にするための最初のステップである」と述べています。

ベトナムネズミジカの30年ぶりの発見は、世界中の人に自然を保護する重要性について問いかけています。

 


 

 

せつな
せつな

まるっきり見た目が鹿だ……

かなで
かなで

マメジカはひづめのある動物の中で一番小さい種の一つなんだって

しぐれ
しぐれ

これからもずっとベトナムの森林で生きていってほしいね

 

References:Global Wildlife Conservation