ニュージーランドに生息している「カカポ」と呼ばれる鳥は、地球上に生息する唯一の飛べないオウムです。
現地のマオリ族の言葉で「夜のオウム」を意味するカカポは、現在絶滅の危機に瀕しており、その数はたった200羽ほどしかいません。
13世紀にポリネシアからの入植者がニュージーランドにやってくるまで、カカポには天敵がいませんでした。
それまで島にいた哺乳類は2種類のコウモリとカカポだけでした。
カカポを脅かす存在はせいぜい空を飛ぶ猛禽類くらいのもので、もし危険を感じたとしても地上でじっと動きを止めていればやり過ごすことができました。
しかし入植者が連れてきた犬やネズミなどにはその戦略は全く通じず、カカポは簡単に捕らえられていきます。
そしてカカポの減少を決定的にしたのが、18世紀のヨーロッパ人の入植でした。
彼らはニュージーランドに、ネズミ、猫、イタチ、フェレット、ポッサムなどの外来種を持ち込みました。
他の地域から隔絶されたニュージーランドの環境はそれらの外来種にとって楽園でした。
現在カカポを含む多くの固有種が絶滅への道を歩んでいます。
カカポを救うプロジェクト「カカポ・リカバリー」
(Department of Conservation/Flickr)
ニュージーランドの環境省が進めているカカポを救うプロジェクト「カカポ・リカバリー」の科学顧問で生態学者のアンドリュー・ディグビー(Andrew Digby)氏は、長年にわたって絶滅の危機に瀕した鳥類を救う活動をしています。
1970年代にはわずか18羽しかいなかったカカポの数は、「カカポ・リカバリー」によって現在では211羽にまで回復しています。
ディグビー氏のプロジェクトチームは毎年、カカポの数を増やすため繁殖のプロセスに手を加えています。
カカポの卵の40%はヒナが孵らず、また彼らはニュージーランドに固有のリムの木に実がなる周期である2年から4年に1度くらいの頻度でしか繁殖をしません。
そのため天敵がいる自然の環境においては、カカポの数は減ることはあっても増えることはありません。
プロジェクトチームは、カカポが産んだ卵をすぐに保育器に移し人の手によって管理しています。
2019年の繁殖は記録上最も成功し、1月から4月までに生まれた86のひなのうちの70羽はまだ生きています。
現在カカポは天敵のいない4つの島にだけ生息していて、プロジェクトチームは彼らにマイクロチップを埋め込み健康状態や行動範囲などを常に監視しています。
また得られたデータは遺伝的に繁殖に適した個体を識別するのにも役立っています。
カカポは近年の急激な数の減少から、遺伝的に近親である可能性が高く、それがヒナが孵る率を低くしている原因にもなっています。
個体の情報は、近親相姦を避け健康な卵を産むことにつながります。
最近では新しい取り組みとして、人工授精で使うカカポの精子を、別の地域で活動している保護グループにドローンを使って送り届けることも始めています。
Image Credit: Andrew Digby/Twitter
ディグビー氏は「私たちの長期的な目標は本土にカカポを取り戻すことだ」と述べ、天敵のいないカカポの聖域を、現在の4つの島からさらに広げていくことに意欲をみせています。
カカポの天敵を排除するプログラムの効果と批判
ニュージーランド政府は2016年に、カカポの天敵であるポッサムやオコジョ、ネズミなどを捕らえるために「プレデター・フリー 2050 (Predator Free 2050)」と題したプログラムを開始しました。
このプログラムはマオリ族、地主、NGO、学校、企業、個人などが参加する草の根のプロジェクトで、トラップを設置することで天敵を駆除するというものです。
これが成功すれば、カカポを含むニュージーランドの固有の鳥が、再び自然の環境で繁殖できるようになる可能性があります。
しかしプレデター・フリー 2050で使われるトラップは、猫を捕らえることがあるため一部では批判的な意見もあります。
また空中から哺乳類を標的とした毒素を散布する案も採用されていて、カカポなどの鳥類には影響がないものの、他の種(特に犬)に与える被害について懸念する声があがっています。
プレデター・フリー 2050の科学ストラテジストであるダン・トンプキンズ(Dan Tompkins)氏は、猫の問題については後日検討がなされるとし、また毒素に関しては、付随的に他の種にも影響を与えるかもしれないとしつつも、それによってカカポの天敵がいなくなれば、結局はカカポにとって有益であると述べています。
プロジェクトの科学者は、プレデター・フリー 2050によって天敵が根絶されれば、もう二度とこうした方法をとらなくても済むと考えています。
天敵を排除するための活動は他の地域(例えばオーストラリアの野良猫の駆除など)でも行われていますが、今のところ成功した事例は、南極大陸付近にあるサウスジョージア島におけるげっ歯類の駆除だけです。
ニュージーランドはサウスジョージア島の76倍の広さがあり、また様々な種類の捕食者が生息しています。
カカポだけを守りつつ、天敵だけをピンポイントで駆除するのは簡単なことではありません。
それでも科学者たちはこの方法が、絶滅の危機に瀕した種を守るための良い方法であると信じています。
ディグビー氏は、「もしプレデター・フリー 2050が成功すれば、ニュージーランドの自然保護問題のほとんどが解決するだろう」と述べています。

カカポにはみんな違う名前がつけられてるんだって!

いろんな地域でカカポが見られるようになるといいね
References: CNN