オーストラリアのABCニュースが、絶滅したタスマニアタイガー(フクロオオカミ)について、興味深いアンケートを実施しました。
タスマニアタイガーは1936年に地球上から姿を消した肉食有袋類で、人間が絶滅させた種として広く知られています。
タスマニアタイガーは家畜を襲うことから目の敵にされ、当局が懸賞金を出してまで駆除を行うなどした結果、最後の個体であるベンジャミンの死をもって絶滅しました。
アンケートは、「科学技術によってタスマニアタイガーが復活するとしたら、あなたは賛成ですか、それとも反対ですか」というもので、タスマニアを含むオーストラリア全土から多くの回答を得ました。
タスマニアタイガーの復活は、たらればの話ではなく、現実的なレベルで議論されています。
科学者たちは、近縁種であるダンナート(ダナート)のゲノムをタスマニアタイガーに似せて編集し、別の近縁種を使って代理出産させる計画を立てています。
絶滅した種の復活には複雑な問題が絡んできますが、タスマニアタイガーに直接関わってきた歴史を持つ人たちは、これをどのように捉えているのでしょうか。
タスマニアタイガーの復活 オーストラリアとタスマニアの温度差
最後のタスマニアタイガー、ベンジャミン (Thylacine “Benjamin”/Public Domain)
タスマニアタイガーを復活させるべきか?という問いには、1305件の回答が寄せられました。
内訳は、賛成が68%、反対が24%、残りの8%が決められないというものでした。
賛成した人の多くは、「タスマニアタイガーを絶滅させたのは人間であり、私たちには責任がある」と考えました。
これらの人は、人間の都合でタスマニアタイガーを絶滅させたことは間違いであり、科学によって復活が可能になるならばそうすべきである、というスタンスをとっています。
またタスマニアタイガーの最後の生息地であったタスマニア島の人々は、この種が頂点捕食者であったことに触れ、復活すれば、島の生態系の維持に貢献するだろうという意見をもっていました。
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一方、反対を表明した人は、より現実的な選択肢を選ぶ傾向にありました。
具体的には、「現在の環境にもっと目を向けるべきだ」といったものや、「絶滅した種ではなく、絶滅しようとしている種にリソースを振り向けるべきだ」といった意見がでました。
オーストラリアは、特徴的な固有種が多く生息する世界でも類を見ない地域で、このことは、現地の人たちにとってアイデンティティの一つにもなっています。
ある投稿者は、交通事故や病気、生息地の喪失などにより、多くの在来動物が失われていると指摘しました。
また別の人物は反対する理由として、絶滅危惧種の復活に、倫理的および道徳的問題が存在していることを挙げています。
タスマニアタイガーの復活を巡る議論では、当事者であるタスマニアの人々の意見に特に多様性が見られました。
回答の内訳をオーストラリア本土とタスマニアで比較してみると、反対意見が本土の人では18%だったのに対し、タスマニアでは41%に跳ね上がりました。
これは、タスマニアがオーストラリア以上に、迫害の歴史をたどってきたことに関連しています。
ヨーロッパ人の入植以降、先住民であるアボリジニは、差別や組織的な排除により多くの人が犠牲となり、特にタスマニアのアボリジニは“絶滅寸前”にまで追いやられました。
タスマニアタイガーがオーストラリアではなくタスマニアで絶滅したことを考えるならば、復活に関する話題は、タスマニアの人々にとって、よりデリケートなものになるはずです。
タスマニア大学の副学長であるグレッグ・リーマン教授は、「タスマニアタイガーについて考えることは、アボリジニの問題を考えることの代用品になります。このような会話をすることは、国民の良心に埋もれがちなテーマについて、人々が話し合うきっかけになるかもしれません」と述べています。
絶滅した種を復活させるか、それとも今いる種を守っていくか、難しい問題……
できることなら復活してほしいなー
Reference: ABC News