地球のあちらこちらで食べる者と食べられる者の壮絶な戦いが繰り広げられています。
カーストの下位に位置する生き物は食べられる運命にありますが、ときに自然は弱者に味方することがあります。
アリゾナ州ユマ郊外にある砂漠で発生した一連の戦いでは、ある種類のネズミが天敵であるガラガラヘビを撃退しています。
その俊敏な動きから、彼らは“忍者ネズミ(Ninja Rat)”と呼ばれています。
ガラガラヘビよりも素早いカンガルーネズミ、時にはキックを食らわすことも
カリフォルニア大学リバーサイド校とサンディエゴ州立大学の学生たちでつくる研究チームは、陸生脊椎動物の行動と保全に関する様々な活動をしています。
その中には、捕食者とその獲物との間にある相互作用について調べることも含まれています。
彼らは砂漠にすむガラガラヘビとその獲物であるネズミについて、高速度カメラを用いその実態に迫ることにしました。
ヘビは獲物をじっと待ち続けてからものすごいスピードで噛みつきますが、それでも狩りの成功率は100%ではありません。
狩りが失敗するのはヘビの命中率以外にも、獲物の運動能力が関係している可能性があります。
リサーチの対象になったのは、ヨコバイガラガラヘビ(通称サイドワインダー)と、カンガルーネズミとよばれる体長10㎝~20㎝ほどの小さなネズミでした。
研究チームは、ヨコバイガラガラヘビ数匹に無線送信機を取り付け、数か月間にわたり彼らの狩りの様子を記録しました。
結果、13匹のヨコバイガラガラヘビが記録した32件の狩りのうち、カンガルーネズミを噛むことができたのは15件だけでした。
さらにそのうちの8件は、噛みつきが成功しながらもネズミに逃げられていました。
体格や力の差からヨコバイガラガラヘビに圧倒的有利なはずの戦いでしたが、意外にもその成功率が低いのは驚きです。
噛みつくことができなかった残りの17件については、ヘビ側のミスの他に、ネズミの驚異的な運動能力によって避けられたものや反撃されたものさえありました。
ヨコバイガラガラヘビの攻撃を華麗に避けるカンガルーネズミ Kangaroo rat dodges rattlesnake strike
ヨコバイガラガラヘビは非常に素早く、100ミリ秒(0.1秒)未満で獲物に噛みつくことができます。
しかし記録は、ネズミがヘビよりもさらに速く動いたことを示しました。
チームはネズミが38ミリ秒で反応しヘビの攻撃を避けているのを確認しています。
また攻撃を逃れたネズミの中には空中で身体の向きを変えたり、ヘビに蹴りを入れたものもいました。
自らの身長の7~8倍もの高さまでジャンプし華麗に攻撃を避ける姿は、まさに忍者そのものです。
捕食者のスピードに対応するために進化したカンガルーネズミの敏捷性
研究チームの一人Timothy Higham氏は、カンガルーネズミの高速回避は捕食者の高速スピードに対応するために進化してきたのではないかと考えています。
カンガルーネズミの超高速で力強い動きは、高性能の捕食者を回避するための効果的な戦略について教えてくれています。
カンガルーネズミの素早い動きは単なる偶然ではない可能性があります。
今回撮影された映像を見ると、ネズミがヘビの攻撃を知覚し迅速に対応していることや、ヘビに関する情報を処理し適切な防御行動をとるといった複雑な行動をしていることがわかります。
研究チームは、カンガルーネズミが環境に適応したことで“忍者ネズミ”になったことを今後の調査によって明らかにするつもりです。
集まった32のデータのうちヨコバイガラガラヘビの攻撃がカンガルーネズミに到達した割合は81%で、噛むことができたのはそのうちのわずか47%、そして殺された割合は22%にとどまりました。
ヘビが木の枝などの障害物にあたりミスをしたものもありますが、思った以上に低い狩りの成功率と言えるでしょう。
依然捕食者と獲物という関係は変わりませんが、カンガルーネズミの間に忍者スキルが広まればガラガラヘビとて安心してはいられなくなるかもしれません。
References:LiveScience,FunctionalEcology