南極に生息するウェッデルアザラシを調査しているグループは、水中に設置した音響設備のデータから、数種類に及ぶ超音波を検出しています。
ウェッデルアザラシは体長2.5~3.5メートル、体重が400~600キロで、アザラシの種では最大のものの一つです。
活発な大人の個体は一日で50キロもの餌を食べ、一度の呼吸で水深600メートル地点まで潜ることができます。
クジラやイルカ、そしてコウモリなど、動物のなかには、超音波を使用して周囲の物体の位置を把握するものがいます。
しかし過去に、アザラシが超音波を使ったという記録はありません。
アザラシの種で超音波が確認されたのは初めて
南極海の状態をリアルタイムで観測しているマクマード海洋観測所(MOO)は、2017年から2年にわたり、ウェッデルアザラシが生息する海域に特殊な水中マイクを設置し、音声データを集めました。
ウェッデルアザラシは音を使って他の個体とコミュニケーションをとることが知られており、これまでに30以上の鳴き声が特定されています。
鳴き声のパターンは氷上と水中では異なり、個体によってはオリジナルの歌を歌って仲間や家族と会話をします。
水中に設置したマイクは、人間の耳では聞き取れない超音波を9種類記録していました。
超音波は単音や連続音などいくつかのバリエーションがあり、また周波数の範囲もそれぞれでかなりの違いがありました。
一部の音は、人間が聞き取れる上限である20kHzほどでしたが、なかには49.8kHzという高音も含まれていました。
水中で複数のアザラシが超音波を出した場合、結果として生じるノイズは、コウモリでさえ聞き取れない200kHzを超えました。
動物の出す超音波は、空間を認識するエコーロケーションと呼ばれる能力に関係しています。
しかしウェッデルアザラシの超音波がどういう目的で発せられているのかは、まったくの謎です。
研究を行った米国オレゴン大学のポール・チコ氏は、「ウェッデルアザラシの鳴き声は、氷の下で信じられないような異世界のサウンドスケープを作り出す」と述べ、高音やそのリズムを、レーザービームを使ったスターウォーズの戦闘シーンに例えています。
(上のビデオで数種類の音を聞くことができます)
研究者は、ウェッデルアザラシの超音波が、エコーロケーションか、あるいは他の個体とのコミュニケーションに使われていると考えています。
南極の冬の海は特に暗いため、超音波は海氷の位置を知るために役立っている可能性があります。
またアザラシは、海中のノイズによって会話がかき消されるのを防ぐため、周波数を意図的に変更している可能性もあります。
チコ氏はウェッデルアザラシが出す超音波について、「ノイズのなかでコミュニケーションをとるための、会話の要素に過ぎないのかもしれない」と述べています。
研究結果はJournal of the Acoustical Society of Americaに掲載されました。
ウェッデルアザラシは1時間以上水中に潜っていられるんだって
アザラシの超音波は水中専用の会話なのかもしれないね
References: McMurdo Oceanographic Observatory,LiveScience