強力な捕食者としての役割から海洋生態系のなかでも重要な種であるサメは、ここ数十年に及ぶ乱獲でその数を減らしています。
しかし個体数のデータのほとんどは漁業記録からきているため、沿岸地域に生息するサメの実態については不明な部分があります。
アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの国際的な科学者チームは、世界58か国、371のサンゴ礁に水中カメラを仕掛け、これまで不足していた沿岸に生息しているサメのデータを収集しています。
カメラがとらえたのは、サメがほとんど訪れない寂しいサンゴ礁の姿でした。
世界のサンゴ礁の20%でサメの姿が確認できなくなっている
2015年から始まった個体数調査プロジェクト「グローバル・フィンプリント (Global FinPrint)」は、沿岸部に生息するサメの実態について知るため、世界中のサンゴ礁にリモートカメラを仕掛け、3年間で18,000時間を超える映像を記録しています。
多様な生物が生息するサンゴ礁は、サメの存在によって個体数が安定し生態系が維持されています。
しかし近年の海水温の上昇により、多くのサンゴ礁が致命的なダメージを受けています。
グローバル・フィンプリントの調査結果は、サンゴ礁の衰退が、海水温の上昇だけでなくサメの減少によっても起きていることを明らかにしています。
(Credit: Global FinPrint)
調査期間中、水中カメラの前面に取り付けられた餌は、多くの海域でサメを引き付けました。
しかし一部のサンゴ礁では、まったくといっていいほどサメが観察されませんでした。
サメが訪れなかったのは、ドミニカ共和国、フランス領アンティル、ケニア、ベトナム、オランダ領アンティル、カタールの6つの国のサンゴ礁で、姿が確認されたのは800時間以上の調査のなかで3匹だけでした。
オーストラリアのジェームズクック大学の海洋生物学者であるコリン・シンプフェンドルファー氏は、「この結果は、サンゴ礁にサメがまったくいないことを示すものではないが、機能的な絶滅を意味するものだ」と述べ、サメのいない状況は、サンゴ礁の生態系にとって普通ではないと指摘しています。
サメの減少がみられたサンゴ礁は全体の約20%でした。
世界のサンゴ礁から得られたデータの分析は、サメの減少に人間の活動が大きく関わっていることを浮き彫りにしています。
サメを保護する政策や漁獲制限がない国の海域では個体数が減少していたのに対し、保護区や漁具の規制があるオーストラリア、バハマ、ミクロネシア連邦、ソロモン諸島、フランス領ポリネシア、モルディブ、アメリカの海域では、サメが活発でサンゴも健康でした。
規制のない国のサメは、ヒレの需要のために乱獲されたり、他の魚と一緒に混獲されています。
サメの成長は遅いため、捕獲量が供給量を上回ればサンゴ礁の生態系は維持できなくなります。
研究者の一人で米国フロリダ国際大学の海洋学者であるマイク・ハイトハウス氏は、「サンゴが生き残るのに苦労しているなか、サメも失われてしまえば、サンゴ礁全体に悲惨な結果が訪れる」と述べています。
研究結果はNatureに掲載されました。

保護や漁具の改良でサメの数が増えた場所もあるんだって

サメはサンゴ礁の健康維持に欠かせない生き物なんだね
References: ScienceAlert