道を歩いているときペットのフンを見つけると嫌な気分になります。
人間の場合、フンを避けて通りそれを忘れることができますが、野生の生き物では状況が異なります。
フンの放置を禁止する看板は、飼い主に責任を負わせるためだけのものではありません。
ペットのフン(犬と猫の両方)は、在来の植物や生物に多大な影響を与えるおそれがあります。
なぜフンを放置してはいけないのか、その理由を見ていきましょう。
ペットのフンは肥料にはならない
肥料は作物を健康に育てるうえで欠かせないものです。
一部の飼い主はこの考えを、フンを放置する正当な理由であると考えます。
実際、自然の中においては、動物のフンが土壌を豊かにし、それが植物や微生物を支えています。
しかし野生の生き物とペットでは、普段食べているものに決定的な差があります。
ペットが口にするものは栄養価が圧倒的に高く、フンには消化しきれなかったものが大量に残ります。
これらが水路に流されるとその栄養により、藻類が繁殖する場合があります。
ドイツで行われた研究によると、もし誰も犬のフンを始末しなかった場合、1ヘクタールあたり、毎年11㎏以上の窒素と4㎏以上のリンが自然環境に追加されます。
この数値はほとんどの農場にとって違法なレベルです。(窒素とリンは富栄養化の主な原因)
フンに潜む病気
外飼いの猫のフンを適切に処理するのは難しい (Hadley Woodall/Unsplash)
猫のフンの場合はどうでしょう。
家で飼っている猫は決められた場所でトイレをしますが、外飼いの場合、犬と違って飼い主がフンを処理するのは難しくなります。
猫はトキソプラズマの終宿主であり、この寄生虫はフンに潜みながら、中間宿主であるヒトを含む恒温動物に乗り移ります。
トキソプラズマ症にかかると衰弱や行動の変化が起こり、特に野生動物は、猫を恐れなくなります。
これにより、地域の生態系が乱れたり崩壊したりするおそれがあります。
カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究によると、トキソプラズマ症は、都市部に近い場所に生息している野生動物が最もかかりやすく、その主な原因は飼い猫のフンです。
トキソプラズマは環境の変化に強く、フンが処理されなければ、1年半も生き続けることができます。
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フンのにおい
フンの放置はにおいの問題を引き起こします。
近くを通る人間はもちろんですが、それよりも大きな影響を受けるのは、フンの周囲に生息している野生動物です。
犬のフンは周りの野生動物に、「ここに捕食者がいるぞ」という警告を発します。
これはマーキングのように機能し、犬の脅威を感じた生き物を遠ざけます。
オーストラリアで行われた調査によると、オーストラリア固有の哺乳類のうち83%が、犬のフンを脅威として認識していることがわかっています。
例えばシドニーに生息するバンディクートは、室内で飼われている犬であっても、その家の裏庭には近づこうとしませんでした。
放置されたフンは、思いも寄らない生き物の生活を乱すことにつながります。
それらの中には、希少な種や絶滅危惧種もいるかもしれません。
近年は都市化が進むにつれ自然への回帰傾向が強まり、人間が生活するすぐそばに、公園や庭園、緑地などの、野生動物が生息する環境が生まれています。
犬や猫のフンは人間が考えている以上に、近くに住む生き物にとって脅威になりえます。
飼い主ができる最も簡単で効果的な方法はただ一つ、フンを必ず持ち帰りゴミ箱に入れることです。
トキソプラズマはいろんな生き物に寄生するから特に注意が必要だね
フンの後始末をするのは最低限のマナー……
Reference: The Conversation