競馬の騎手が使用するムチには、馬をスピードアップさせる効果があるとされています。
競馬という文化が始まって以降、ムチの使用は当然の行為とみなされてきましたが、近年はアニマルウェルフェアの観点から、厳しい目が向けられるようになっています。
国によって異なるものの、現在レース中のムチの使用回数は制限される傾向にあります。
オーストラリアの研究者は、イギリスで行われた複数のレースを検証した結果、馬へのムチの使用には、競馬関係者が望むほどの効果はないと結論づけています。
ムチがあってもなくても、馬のスピードは変わりません。
ムチを使用しても馬のスピードは変わらない
南オーストラリア大学の人類学者であるキリリー・トンプソン氏を中心とした研究チームは、ムチの馬への効果を検証するため、イギリスの見習い騎手が行っているムチを使わないレースと、通常のムチを使ったレースを比較しています。
イギリスでは1999年以来、見習い騎手による「手とかかと」だけを使ったレースが行われています。
このレースでは、衝突回避などの緊急事態以外でのムチの使用は禁止されています。
対象となったのは、2017年1月から2019年12月までに行われた126のレースで、内訳は「ムチなしレース」が67、「ムチありレース」が59でした。
レースに参加した馬と騎手は合計1178組でした。
統計的手法による検証の結果、「ムチなし」と「ムチあり」の間には、馬の動きやスピード、騎手の事故、タイムなどにおいて有意な差がみられないことが明らかになりました。
ムチは馬を望む方向に動かす効果もあるとされていますが、実際には機能せず、レースの平均タイムはムチがあってもなくても変わりませんでした。
トンプソン氏は、「ムチの使用は操縦性、安全性、速度に影響を与えない」と説明し、レースでのムチの使用について、「長年の信念に反し、うまくはいかない」と述べています。
研究者は「ムチを使用しないレース」と「ムチのないレース」は違うものだと指摘し、安全が脅かされている場合には、状況に応じてムチを使用するべきだとしています。
オーストラリアやイギリスの競馬関係者は、ムチの使用は、馬と騎手の安全のために必要であると主張しています。
過去の研究では、ムチが馬に苦痛を与えることが示されていますが、レース結果を左右する決定的な道具であるかについては、はっきりとした証拠がありませんでした。
今回の検証結果は、競馬からムチが取り除かれるきっかけになり得るものです。
研究者は、「ムチを使用しないレース」は馬の福祉と競馬の社会的受容につながると指摘しています。
研究結果はAnimalsに掲載されました。
ノルウェーではムチを使わないレースが30年以上も開催されてるんだって
ムチが使われなくなれば競馬を見る人がもっと増えるかもしれないね
Reference: The Conversation