2011年の福島での原発事故以降、周辺の人間が立ち入ることができなくなった区域では野生動物たちが繁殖しています。
放射能による影響は人間だけでなく動物にも及びます。
しかしコロンビア大学の生物学者が中心となって行なった調査によると、動物たちは現在、人のいなくなった禁止区域のなかで我が世の春を謳歌しています。
制限区域内でたくましく生きる野生動物たち
ジョージア大学の野生生物学者ジェームズ・ビーズリー教授たちのグループは、2016年に、福島原発周辺の立ち入り禁止区域内で野生動物の調査を行っています。
調査の目的は、チェルノブイリや福島のような原発事故を起こした地域に生息する野生動物の、事故後の状況について知ることです。
調査チームはリモートカメラを設置して、動物たちの写真を大量に撮影しています。
カメラの設置場所は、「汚染レベルが最も高く人間の立ち入りが禁止されている区域」、「中間の汚染レベルで立ち入りが制限されている区域」、「汚染レベルが低く人間が留まることを許可された区域」の3つのエリアに分けられました。
設置された106のカメラは、120日の調査期間中、20種類以上の動物の写真を267,000枚以上撮影しました。
そこに写っていたのは、タヌキ、イノシシ、ニホンザル、キジ、キツネ、ニホンノウサギなど、多様な種の動物たちでした。
ニホンカモシカ Image: University of Georgia
ニホンザル Image: University of Georgia
ビーズリー教授は、「放射能汚染があるにもかかわらず、福島の避難区域全体には多くの野生動物が存在している」と述べています。
カメラが捉えた動物で最も多かったのがイノシシで、46,000点以上の画像が撮影されました。
これらのうち26,000点以上の画像が人の出入りが禁止された無人の地域で撮影され、残りは制限区域で13,000点、人が住んでいる地域で7,000点がそれぞれ撮影されています。
野生のイノシシ Image: University of Georgia
ビーズリー教授は、人間と衝突することの多いイノシシが、人間が避難した後にその地域で繁殖したことが、立ち入り禁止区域内での撮影数の多さにつながっていると説明しています。
放射線は動物の種の多様性に影響を与えていない
人のいなくなった地域ではイノシシの他にも、アライグマ、テン、ニホンザルなどの動物がよく見られました。
カメラが設置された地形は山地から沿岸地域まで様々でしたが、動物たちはどのエリアでも生息していました。
このことから研究者は、福島原発周辺で見られる動物の種の多様さは放射線レベルとは関係がなく、周囲の人間の有無や、地形や植生タイプと関連があると結論づけています。
またこの研究は、個々の動物の健康状態には焦点を当てておらず、動物集団全体に対する放射線の影響について調べたものであることも付け加えています。
禁止区域や制限区域の動物たちが見せる行動パターンは、同種の動物たちが通常の環境で見せるものとほぼ同じでした。
例えば夜行性であるアライグマが撮影されたのは主に夜であり、日中に活動的であるキジは昼間に撮影されました。
イノシシは区域によって異なり、人のいない地域のイノシシほど日中の行動が活発でした。
またニホンカモシカは人の住む場所の近くで撮影される傾向がありました。
研究者はこのニホンカモシカの行動を、制限区域で急速に増えているイノシシを避けるためのものだと推測しています。
カメラはこの他にアカギツネ、ハクビシン、イタチ、二ホンジカ、ツキノワグマなども撮影しています。
研究結果はJournal of Frontiers in Ecology and the Environmentに掲載されました。
放射線が野生動物にあまり影響を与えてないのは驚きの結果だね~
チェルノブイリ周辺は野生動物で溢れていると聞いたことがある……
過酷な環境にも適応できる動物ってスゴイ!
References: University of Georgia