ペットが名前を呼ばれたときに振り返るのはなぜなのでしょう。
ペットが自分の名前を認識しているのかという疑問は、長い間研究者を悩ませてきました。
呼んで振り返るのなら認識しているのではないか、そう考えるのは早計です。
犬にしろ猫にしろ、名前ではなく単に音に対して反応しているだけの可能性があるからです。
今回、日本の研究者チームは、飼い主からの呼びかけに猫がどう反応するかについて興味深い実験を行っています。
それによると一部の猫は、“おそらく”自分の名前を認識しています。
呼びかけに対する反応は周囲の環境によって大きく異なる
上智大学総合人間科学部心理学科の齋藤慈子(Atsuko Saito)准教授の研究チームは、ペットを飼っている11世帯を対象に、「馴化(じゅんか)」の手法を用いた実験を行いました。
馴化は心理学の概念の一つで、ある刺激に対して段々と反応が鈍くなっていくことを表します。
実験では飼い主が、自分の猫の名前を含む様々な名詞を読み上げ、猫がどのような反応を返すのかを観察しました。
それぞれの名詞は、猫の名前と似たような長さとリズムのものが選ばれました。
もし自分の名前にだけ顕著な反応を示すのなら、猫は名前と他の名詞をはっきり区別していることになります。
まず猫はどんな名詞であれ、最初の単語に注意を払いました。
しかしそれが自分の名前でない場合、興味は薄れ、身体的な反応は落ち込みました。
最終的に11匹中9匹が、自分の名前に対し、統計的に有意とみられる反応を示しました。
この結果は数字だけ見るならば、「猫は名前を認識している」と断定してもいいものです。
しかしこうした反応は馴化によるもの――つまり猫は、飼い主が自分を呼ぶときにいつも同じ言葉を使っているからそれに慣れているだけだ、という可能性もあります。
この疑問を解消するには、別の環境で実験をする必要があります。
(vedanti/Pixabay)
研究チームは次に、複数の猫を飼っている世帯を対象に実験を行いました。
ここでも同様に飼い主が名詞リストを読み上げますが、前回とは違い、対象の猫のほかにも同居している別の猫がいます。
猫が自分の名前を本当に認識しているのなら、音の長さやイントネーションなどにかかわらず、呼びかけに対し正確に反応するはずです。
飼い主はリストの前半、同居している別の猫の名前を呼び、最後に対象の猫の名前を読み上げました。
その結果、24匹中6匹が、自分の名前を呼ばれたときに強い反応を返しました。
研究チームはその後、同様の実験を、複数の猫が生活している「猫カフェ」でも行いました。
ここでは、9匹中3匹が自分の名前に対し強い反応を見せました。
これらの結果は、少なくとも一部の猫が、自分の名前を他の名前とは違うものであると認識していることを示しています。
今回の実験結果をもって、「猫は自分の名前を認識している」と結論づけることはできません。
「家の中」、「飼い主と猫の一対一」という環境では、猫は確かに自分の名前に反応していました。
一方、他の猫や雑音のある環境では、区別が困難になりました。
猫は賢い動物ですが、その能力は人間が期待する方向には働いていない可能性があります。
例えば、普段から餌をもらう際に名前を呼ばれている猫は、単に餌という報酬を名前と結びつけているだけなのかもしれません。
この場合、飼い主からの呼びかけは、猫にとってお腹を満たすための合図にしかすぎないということになります。
猫が名前を本当に理解しているかどうかは、単語だけでなく、文法や構文などにも焦点をあてたさらなる研究が必要です。
研究を行った斎藤准教授は、自身の飼っている猫を例に出し、「猫には名前を認識する能力があると思うが、反応するかはその猫の気持ち次第である」と述べています。
猫はきまぐれだから実際は名前を理解してるのかも
餌が欲しいだけだったとしても、名前を呼んで反応してくれれば飼い主は嬉しい……
Reference: Nature