タスマニアデビルの絶滅回避に希望 致命的な病気DFTDに対抗する「スタチン」

動物
(Steven Penton/Flickr)

スペインとオーストラリアの科学者チームは、タスマニアデビルに特有の病気「デビル顔面腫瘍性疾患 (DFTD)」への対抗策として、コレステロールを抑制する薬「スタチン」が有効であるとする研究結果を発表しています。

 

DFTDは、タスマニアデビルの顔面に発生する致命的かつ伝染力のある悪性腫瘍で、1990年代半ばに症例が報告されて以降、野生の個体の80%以上が犠牲になりました。

タスマニア島にのみ生息するタスマニアデビルは、現在絶滅危惧種に指定されており、種の絶滅を防ぐため、科学者や自然保護団体が懸命な努力を続けています。

 

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致命的なDFTDに効果があるスタチン

 

スタチンは血液中のコレステロール値を低下させる薬で、ヒトに対しては、高コレステロールに伴う心血管障害や動脈硬化などを予防する目的で使用されます。

DFTDの発生や伝染のメカニズムは完全には解明されていませんが、今回研究を行ったチームは、腫瘍細胞の成長にコレステロールが関わっている可能性を見出し、実験によってそれが正しいことを確認しました。

 

ブリスベンのQIMRバーグホーファー医学研究所で研究を行った、マヌエル・アレハンドロ・フェルナンデス-ロホ氏とマリア・イコノモポウロウ氏らのチームは、タスマニア州政府からDFTDの細胞の提供を受け実験を行いました。

実験では、DFTDの核内受容体である「肝臓X受容体 (Liver-X-receptor)」が活性化した場合、エネルギー源としてブドウ糖が使用され、それによって腫瘍が成長していくことが示されました。

肝臓X受容体はコレステロール値の調節に関係しているため、スタチンが効けば、腫瘍の広がりを防げる可能性があります。

その後チームは実際にスタチンをDFTDの細胞に投与し、腫瘍の成長が、コレステロールの低下によって抑制されることを発見しました。

 

個体数が激減しているタスマニアデビル (zoofanatic/Flickr)

 

実験結果についてフェルナンデス-ロホ氏は、「スタチンは実験室ではDFTDの成長を抑制しましたが、これらのコレステロール低下薬が、DFTDを阻害あるいは遅くできるかどうかについてはさらなる研究が必要です。うまくいけば種の保護に役立つでしょう」と述べています。

 

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今回の実験結果は、ヒトの悪性腫瘍に対する理解にもつながる可能性があります。

イコノモポウロウ氏は、「ヒトのがん細胞は、DFTD細胞が示したものと同様の代謝適応を受けて成長する」と説明し、「これは、現在心血管疾患や糖尿病の治療に使われているスタチンが、黒色腫、すい臓がん、結腸癌などの攻撃的ながんにも使用できるのかどうか、という疑問を提起します」と述べています。

 

ビクトリア州によると、現在野生に残っているタスマニアデビルは15,000匹未満です。

DFTDについては、2020年の研究で、感染力が弱まりつつあるという結果も出ています。

 

 

研究結果はCell Reportsに掲載されました。

 


 

 

かなで
かなで

タスマニアデビルは仲間同士でケンカしたときにDFTDにかかるみたい

しぐれ
しぐれ

次のステップは、野生のタスマニアデビルに薬が効くかどうかを確かめることだね

 

Reference: Phys.org