アメリカ海洋大気庁(NOAA)と、南カリフォルニア沿岸水研究プロジェクト(SCCWRP)が共同で行った研究は、太平洋沿岸に生息するカニが海の酸性化の影響を受けていることを明らかにしました。
調査では、北アメリカの西海岸に生息する食用としても重要なカニ「アメリカイチョウガニ(Dungeness crab)」の子供の殻が、酸性化によって小さくなったり損傷を受けたりする例を確認しています。
酸性化した海は、カニなどの甲殻類の「骨」ともいえる殻を溶かします。
海が酸性化するとカニだけでなく、二枚貝やウニ、サンゴ、殻をもつ特定のプランクトンなどの成長が阻害され、それらを餌とする海洋生物にも影響を及ぼすことになります。
海に閉じ込められた大気中の二酸化炭素がカニの殻を溶かす
食材としての需要も高いアメリカイチョウガニ (Liz Lawley/Flickr)
科学誌Science of the Total Environmentに掲載された研究に携わった、SCCWRPの上級研究員であるニーナ・ベドナーシェク(Nina Bednarsek)博士は、この研究は、幼生のカニが自然環境において海洋酸性化の影響を受けていることを実証した最初のものであると述べ、「もしカニがすでに影響を受けているのであれば、手遅れになる前に食物連鎖の様々な要素にもっと注意を払う必要がある」と指摘しました。
研究では、アメリカの北太平洋沿岸で採取されたアメリカイチョウガニの子供を高倍率の電子顕微鏡で調べ、彼らの殻に腐食や損傷の跡を発見しています。
殻はカニにとって文字通り命を守るだけでなく、浮力を調整したり水中で垂直姿勢を維持したりするのにも役立っています。
殻の損傷によってこれらの能力が失われると、カニの子供は捕食者から身を守ることができなくなり、それはアメリカイチョウガニ全体の数を減少させることにつながります。
また殻から伸びている毛のような形をした「機械受容器(mechanoreceptors)」と呼ばれる感覚器も、海の酸性化によって損傷していることがわかりました。
この器官が損傷したカニは正常なカニと比べて動きが遅くなったり、餌を探し当てるのに時間がかかったりといった異常行動を見せました。
そして最も重要な発見は、酸性化の影響を受けたアメリカイチョウガニの幼生が、他のカニの種の幼生よりも際立って小さくなっていたことでした。
これは成長のために必要なエネルギーが殻の修復に使われたことが原因だと考えられ、この状況がさらに広がれば、大人になるアメリカイチョウガニの数が激減することも予想されます。
NOAAが2016年に行った調査では、海の酸性化が進行中であることは確認されていたものの、まだカニなどの生物に影響を及ぼすほどではないと考えられていました。
そのため今回アメリカイチョウガニの幼生に、酸性化によるものと思われる殻の損傷が認められたことは、科学者たちを大いに困惑させました。
ベドナーシェク博士は、幼生のカニに見られた殻の溶解が、生殖が活発な大人のカニにも起こるのかについてはさらなる研究が必要だと強調しつつも、幼生のカニが外骨格を修復するために多くのエネルギーを費やしていることから、「大人になるカニの数は長期的には減る可能性が高い」と述べ、アメリカイチョウガニの将来に懸念を示しました。
海洋の酸性化は、主に大気中の二酸化炭素の増加によって引き起こされます。
化石燃料の燃焼から放出される二酸化炭素の約3分の1が海洋に閉じ込められているため、海洋生態系で重要な役割を担う甲殻類を守るためには、二酸化炭素を減らす努力が不可欠になります。
ワシントン州魚類野生生物局の海洋酸性化政策の責任者であるリッチ・チルダース(Rich Childers)氏は、「海洋の酸性化は漁業関係者にとっても大きな懸念事項だ」と述べ、漁業管理者や政策立案者が作る今後の収穫や保全の計画に、今回の研究結果が取り入れられることに期待を寄せました。

他の海域のカニも少なからず酸性化した海の影響を受けているのだろうな

おいしいカニが食べられなくなる前に、二酸化炭素の排出を減らさなきゃいけないね