オーストラリアのモナシュ大学と英国ニューカッスル大学の研究グループは、17年に及ぶ活動の末、ついにアザラシの“拍手”をカメラに収めることに成功しました。
水族館などの人間に訓練されたアザラシが手を叩くことはありますが、野生の個体で確認されたのは今回が初めてのことです。
長年アザラシの行動を調査してきたニューカッスル大学の海洋生物学者ベン・バービル(Ben Burville)氏は、多くのアザラシの生息地として知られるイギリスのファーン諸島の沖で、雄のハイイロアザラシが計7回拍手する様子を捉えています。
バービル氏や他の海洋学者たちは、これまで何度もアザラシが水中で“銃声”のような音を出すのを聞いてきました。
しかしそれがどこから発せられたものなのかはなかなか特定することができず、ほとんどは音声マイクのノイズであると考えられてきました。
2017年10月、ダイビングをしている時にアザラシが手を叩くのを目撃したバービル氏は、急いでカメラを回し、何年もの間謎に包まれていた水中での音の出所をようやく突き止めました。
陸上の動物がたてる大きな音はほとんどが雄によるものであり、繁殖のライバルとなる別の雄に対する威嚇や、自分の強さのアピールのために行われます。
しかし海洋哺乳類であるハイイロアザラシがなぜ拍手をするのかはよくわかっていません。
研究グループは、この行動がコミュニケーションを促進し、自分の強さを相手に知らせたり仲間を引き寄せたりするために使われているのではないかと推測しています。
また海の中が想像以上に騒がしいことも指摘し、より正確に相手に意思を伝えるための手段として、拍手という行動が、進化の過程で獲得されたのではないかとしています。
拍手をする海の動物は今のところハイイロアザラシだけ
ハイイロアザラシが拍手をしていたという事実は、他の海の動物も同様の行動を行っている可能性を示唆するものです。
しかし研究者は、“今のところは”ハイイロアザラシだけが拍手をする海の動物であると考えています。
研究者の一人である英国オックスフォード大学の博士研究員トラヴィス・パーク(Travis Park)氏は、ハイイロアザラシの手の解剖学的構造が拍手をするのに適していると指摘し、ハイイロアザラシと同じグループに属する他のアザラシならば可能かもしれないが、より流体力学的な手を持つアシカやオットセイなどでは拍手をすることは困難ではないかと話しています。
研究グループは人間の出す騒音が、クジラやイルカなどの動物だけでなく、今回のハイイロアザラシを含む、音を使う全ての海洋哺乳類に影響を与えると指摘します。
海には船舶のエンジン音や軍事用のソナーなどの人工的に作られた音が充満しています。
アザラシの拍手はおそらく繁殖の成功に不可欠な要素であるため、こうした海の騒音は彼らの生存と繁栄を脅かします。
研究者は、音を使ったコミュニケーションを取る海の動物についてよりよく理解することが、彼らの生活様式を保護することに役立つだろうと話しています。
海の中でも大きな音が響いているのが驚きだ……
見つかってないだけで、他にも拍手する海の動物がいるかもしれないねー
References:The Conversation, Natural History Museum