ペルー原産の毛の無い犬「ペルービアン・ヘアレス・ドッグ」が辿った激動の歴史と現在の素敵な役割

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Photo by gomagoti/Flickr

ペルー原産の毛のない犬「ペルービアン・ヘアレス・ドッグ」はその名前の通り全身の毛が無い犬で、かつてはペルー全域で飼育されていました。

しかし大航海時代以降、キリスト教が入ってくるとそのあまりに異質な外見から入植者たちに忌み嫌われるようになり、ペルービアン・ヘアレス・ドッグは減少の一途をたどります。

存在が忘れ去られたまま時代が20世紀も後半になると、彼らの生息数は絶滅を危惧するほどにまで減少していました。

ようやく事態に気づいたペルー政府は慌てて彼らの保護政策に乗り出します。

そうしてできた政策の一つが、犬たちをペルーを代表する考古学的価値のある遺跡に配置することでした。

 

現在、ペルービアン・ヘアレス・ドッグはペルーを代表する犬であり、またペルーの文化を紹介する橋渡し役としてたくさんの人々に愛されています。

 

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ペルーの歴史と文化と共に歩んできた犬、ペルービアン・ヘアレス・ドッグ

 

ワカプクヤーナで働くスマックとムナイ Image Credit:BBC

 

ペルーのリマにある古代遺跡ワカプクヤーナでは、2頭のペルービアン・ヘアレス・ドッグが仕事をしています。

全身が真っ黒な毛のない犬は一見すると奇妙で、ともすれば恐ろしささえ感じてしまうほどですが、ワカプクヤーナで働くこの2頭の犬――スマックとムナイは、一日を通して遺跡中を駆け回り、観光客を和ませています。

 

ペルー政府は2000年に、絶滅の危機に瀕していたペルービアン・ヘアレス・ドッグを国の文化遺産の一部であると宣言し、昨年にはこの犬種をペルーの海岸沿いにある考古学博物館に少なくとも1頭以上配置すると発表しました。

ワカプクヤーナを調査、発掘している考古学者ミレラ・ガノーザ氏はペルー政府の方針を、ペルーの文化を――それが消えてしまう前に――取り戻すためのものだと語ります。

 

私たちが理解し始めたのは、彼らをここに置くことが私たちのアイデンティティを示す方法だということです。

 

ペルービアン・ヘアレス・ドッグはペルーの歴史を語る上で欠かせない動物の1種です。

彼らはこの周辺で栄えたインカやチムー、モチェといった文化の絵画や陶器、図像に頻繁に登場します。

また遺伝的にも彼らは独特で、何千年もの間変化していない品種の1つとして知られています。

ペルービアン・ヘアレス・ドッグのブリーダーは、この犬たちを「原始的な犬」と呼び、ペルーの文化にとって「マチュピチュと同じくらい重要だ」と評価しています。

しかしそんなペルーの文化に欠かせないペルービアン・ヘアレス・ドッグも、異文化の侵入によって大きくその運命を変えられることになります。

1532年にスペインの征服者がペルーの先住民とその文化を一掃しカトリックを広め始めたとき、ペルービアン・ヘアレス・ドッグの悲劇も始まりました。

 

“悪魔の犬”の名誉回復とペルー人のアイデンティティ

 

スマックの容姿 Image Credit:BBC

 

征服者たちは海岸沿いに黒い奇妙な姿の犬を見つけ、そのあまりに醜悪な外見から彼らを「悪魔の犬」と表現しました。

突き出た歯と舌、黒褐色で斑点のある毛のない皮膚を見た征服者は、犬の中に何らかの邪悪なものが宿っているとさえ考えました。

ガノーザ氏は「彼ら(スペイン人)は犬を悪魔のようなものだと思っていた」と語り、当時のカトリックの崇拝者たちが犬を悪魔的だと呼んだことが、その後の生息数の減少につながった原因の一つだと指摘しました。

 

こうしてペルービアン・ヘアレス・ドッグは次第にその数を減らしていき、人々の意識から消えていくことになりました。

しかし1990年代に入り風向きが変わってきます。

古くからこの土地に住みペルー人と共に生きてきたペルービアン・ヘアレス・ドッグを、再び国を代表する犬にしようという運動が起き始めたのです。

その後のペルー政府の働きかけによって今では、ペルービアン・ヘアレス・ドッグはペルー人のアイデンティティを示す犬として広く愛されています。

 

ペルー政府はペルービアン・ヘアレス・ドッグのための全国委員会を設置しており、毎年6月12日は「ペルービアン・ヘアレス・ドッグの日」に制定されています。

 


 

ワカプクヤーナの2頭のペルービアン・ヘアレス・ドッグ、スマックとムナイは、公園で働くデリア・ジョミー・フエモンさん(53)という“母親”の元で飼育されています。

 

飼育係のデリアさん、そしてスマックとムナイ Image Credit:BBC

 

デリアさんは毎朝2頭のベッドを掃除し食事の準備をします。

犬以外の動物も管理しているデリアさんは、犬たちがこの場所にいることには大きな意味があると語ります。

 

これは私たちの文化に関することです。ここに犬を配置し人々がそれを見るという単純な行為で私たちはこの物語を伝えています。

 

ペルーの国旗が描かれた服を着たスマックとムナイは観光客の周りを走り回り、ガイドは時折遺跡の説明に加えてこの魅力的な動物についても語ります。

単に遺跡を管理するだけでなくそこに暮らす動物たちも一緒に紹介することは、人々のより一層大きな関心を集め、それが歴史と文化の保護へとつながっていきます。

 

ペルー政府と遺跡の関係者、そして素敵な“黒い悪魔”スマックとムナイは、今日もペルーの魅力を現場から発信し続けています。

 

 

 

References:BBC

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